弁護士 堀江 哲史
2002年 立命館大学法学部卒業
2010年 旧司法試験最終合格
2012年 弁護士登録(愛知県弁護士会所属/名古屋第一法律事務所所属)
2020年 ミッレ・フォーリエ法律事務所設立
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従業員の逮捕と会社の対応
従業員の逮捕。できれば考えたくない話ですし、うちの社員に限って…と思われる方も多いかと思います。しかし、従業員のプライベートまで管理することはできませんし、絶対に起こらない話ではありません。
いざ逮捕された時にどのような判断をするかを事前に考えておくことは、会社の経営者として必要です。
ここでは、従業員が逮捕された時に、会社として焦らず適切に対応するためのポイントを説明していきます。
会社としてどう動くのが適切か(初動)
(1)従業員逮捕の発覚
従業員が逮捕された場合、逮捕直後に会社に連絡されるケースはあまりないと言っていいでしょう。本人が直接外部と連絡が取れなくなるため、連絡は警察を介してになりますが、逮捕後、最初に連絡を取るのは多くの場合、家族や弁護士のため、会社には家族や弁護士から連絡がくる場合がほとんどです。
また、逮捕された当初は、逮捕を隠そうとするために、体調不良などの別の理由で休むという連絡があることも少なくはなく、会社が事実を知るのが逮捕後数日経ってから、という場合もあります。
(2)事実関係の把握
では、従業員が逮捕された事が判明した場合、会社はどのような応対をするのがいいのでしょうか。
警察沙汰、ということになると、すぐに従業員の処分について考えてしまうかもしれません。しかし、刑事処分が確定するまでは無罪の推定が働くため、会社としても、無罪である事を考慮して動く必要があります。そのために、まずは事実関係を正確に把握することが必要になります。
いつ、どのような状況でなぜ逮捕されたのか、本人が罪を認めているのかどうか、勾留期間はどれぐらいになるのかなど、家族や弁護士に事情をたずね、場合によっては本人に面会して事実確認をする必要があります。
ここで気をつけなければいけない点は、勤務時間外での事件により逮捕された場合、従業員のプライペートな問題となることです。当該従業員の処遇を考える上で、プライベートで起こった犯罪を根拠にすることは、後々労働問題に発展する可能性もあるので注意が必要です。
(3)事実確認後どうするか
前記のとおり、刑事裁判で有罪が確定するまでは、罪を犯していない人として扱わなければならないという原則があります。有罪が確定するまでの間に懲戒解雇などの処分をしてしまうと、無罪となった時に従業員から訴えられることも考えられます。そのため、刑事処分が確定するまでは、処分は留保した方が良いでしょう。
また、あくまで個人の問題ですので、会社側が従業員のために弁護士を雇ったり費用を援助してあげる必要はありませんが、早期釈放や刑罰を軽くしてもらうために尽力することが、会社の利益につながることもあるかと思います。
その場合に注意すべき点は、従業員と会社との間に利益相反が生じる可能性を考えて、会社の顧問弁護士などに対応してもらうのは避けた方がよいという事です。弁護士は利益相反となる相手の相談には乗れないため、従業員の弁護を依頼した場合には、本件について、顧問弁護士に会社の相談をすることはできなくなってしまいます。 弁護士費用や保釈金など、一時的に会社が立て替えて支払う事になった場合には、従業員本人もしくは家族との間で金銭消費貸借契約書を交わすのが望ましいです。
刑事処分が決まるまでの処遇
(1)社内(他の従業員)、社外(取引先等)への説明は?
逮捕をされると、最大48時間、警察に留置をされます。その後検察に送検され、24時間以内に検察官が勾留請求をするかどうかを判断します。裁判所が勾留を認める決定を出せば、10日間までの勾留があります。
また、検察官の請求により、裁判官が更に10日間以内の延長を認めることがあるため、最大20日間、勾留によって身柄が拘束されることになります。
勾留期間中は当然出勤することはできませんので、業務に支障をきたすことになり、他の従業員や取引先に対して何らかの説明が必要になり得ます。 ただし、勤務時間外での個人の問題である以上、本人の同意なしに事情を公表してしまうことはトラブルになりかねないので、事前に本人の意向を確認する必要があります。
(2)本人の処遇をどうするか
刑事処分が確定するまでの間、勾留期間中については欠勤となりますが、個人の都合で出勤不能な状態であるので、会社が給与を支払う必要はありません。ただし、本人が希望すれば有給休暇をこれに当てる事も出来ます。
では、当該従業員が釈放され、刑事処分が確定するまでの間に出勤を希望した場合はどうでしょうか。
混乱を避けるために自宅待機を命ずるということも考えられますが、その場合には会社都合の休職となるため、賃金を払う必要があります。
就業規則に「起訴休職」の規定がある場合には、この規定に則った対処をすることになります。
職場の秩序や会社の信用に関わる問題ですので、あらかじめ就業規則にこのような規定を盛り込んでおくのも大事な点です。
(3)休職期間中の扱い
では、就業規則に規定がなかった場合、休職期間が長期に渡る時にはどうすればよいでしょうか。
先ほど、勾留期間が最大20日間であることを説明しましたが、起訴されるかどうかはこの間に決まります。
起訴されてから判決までの期間は、事件の内容によって大きく変わりますが、刑が確定するまでには、判決を不服として上訴する可能性もあるため、場合によっては1年以上かかるケースも出てきます。
このように、休職期間が長期に渡る場合には、休職期間満了による退職もしくは解雇を適用することができますが、いずれにしても就業規則で定められていることが必要です。
就業規則の記載の仕方によっては、解雇が無効になる場合もあるため、いざという時のトラブルを避けるためにも、就業規則に不備がないか、事前に弁護士に相談しておくことをお勧めします。
刑事処分が決まった後の判断
判決が無罪だった場合には、当然ながら会社として何らかの処分をすることにはならず、逮捕前と同じ条件での業務に就いてもらうことになります。
また、有罪だった場合でも、私生活上の犯罪については、懲戒処分の対象にならないのが原則です。
業務時間外におけるプライベートの問題であるため、会社の雇用関係には影響しないと考えられるからです。
ただし、犯罪行為の内容によっては、会社名がマスコミに報道されるなど、会社の名誉や信用を失墜されることもありますので、このような場合には例外的に懲戒処分の対象となることもあります。 さらに、有罪であったとしても、本人がその刑を不服として上訴した場合には、刑は確定していないことになりますので、無罪推定が働くことになるので注意が必要です。