価格転嫁協議に応じない企業名の公表がされました

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弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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原材料高による物価高、資源高の状況は依然変わらず、材料を必要とするメーカーやガソリンを多く消費する運送業などにおいては、立場の弱い下請事業者のコスト問題はますます厳しくなる一方です。

このような状況において、下請事業者にとっては、増加するコストを価格に転嫁することは死活問題であり、こうした価格協議に元請事業者は応じる義務があること、元請事業者が協議に応じない場合には公正取引委員会により事業者名を公表されたり罰則が課されたりすることがあることについて、下記記事で説明させて頂きました。

しかし、それでも価格協議に応じない元請け企業は多く、令和4年12月27日、公正取引委員会は、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に関する緊急調査の結果、「下請事業者と協議せずに取引価格を据え置いた事例が確認された」として、下記の企業名を公表しました。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/dec/221227_kinkyuchosakekka_2.html

上記企業名の中には、株式会社デンソーや佐川急便株式会社など、誰もが知る大会社の名前も見受けられます。そして、このような企業名公表は企業のブランド、信用性を大きく傷つけるもので、例えばデンソー社は同発表を受けて直ちに

「今後もより一層のコミュニケーションを通じて、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議するとともに、法令順守の徹底に取り組み、取引先の皆さまとの相互信頼に基づく相互発展を目指す所存です。」

とのメッセージを自社HPで公表しています。
https://www.denso.com/jp/ja/news/newsroom/2022/20221227-01/

佐川急便も、自社HPにて

「本件を真摯に受け止めております。本件基準の趣旨に鑑み、当社は既に、当社から積極的に協議の場を設けるべく、順次書面にて協議の申し入れを開始しております。また、協力企業様のお立場に配慮し、協議の場においては率直な意見交換ができるよう取り組んで参ります。」

とのメッセージを発表し、公表前から協議に応じるようになったとしています。
https://www2.sagawa-exp.co.jp/information/detail/244/

このように、公正取引委員会による企業名公表は、特に名の知られた有名企業にとっては大きな不利益です。かつ、企業名が公表されたにもかかわらず改善していないことが明らかになれば、さらに罰則なども課せられることがあるので、元請事業者は下請事業者全体との価格協議に応じざるを得ません。そして、こうした企業名の公表は、公表されなかった企業に対しても大きなプレッシャーとなり、その効果は決して小さなものではなりません。

もっとも、下請事業者の方は、このような調査に応じたら、その後元請事業者から報復的な不利益措置、たとえば取引停止などの仕返しがされるのではないか、と考えるかもしれません。

しかし、こうした報復行為は、下請法で明確に禁止されています。

企業名が公表され、さらに報復行為が下請法違反で処罰されれば、企業イメージの失墜は計り知れません。従って、そうした仕返しも心配する必要はないと考えられます。

物価高や資源高は収まる様子がなく、これからも企業を取り巻く経営環境は厳しいままであることが予想されます。特に下請企業にとっては、コストの価格転嫁は会社の生き死にに関わる問題です。

もっとも、元請会社との交渉は、立場の弱い下請会社にとって難しいものですので、お悩みのことがあれば弁護士に相談したり、中小企業庁の下請かけこみ寺という無料相談窓口に相談したりされることをお勧めします。

 

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