中小企業のM&A

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弁護士 山本 律宗

2014年12月 弁護士登録(愛知県弁護士会所属)/名古屋第一法律事務所所属
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中小企業におけるM&A

M&Aは,「Mergers & Acquisitions」=「合併と買収」です。M&Aというと大企業を想像してしまいがちですが,実は中小零細企業にとっても例外ではありません。現に,経営難に陥った病院に対するM&Aや競争力があるが後継者がいない製造業の会社に対するM&Aなど,様々な例が見られるようになっています。

M&Aのメリット

買手のメリットとして上げられるのは,新規事業を立ち上げて,収益を上げられるようにするまでに係る時間とコストの削減です。

もちろん,買手も一定の金銭を支払うので,コストは変わらないのではないかと思われるかもしれませんが,自社における日々の経営実態を考えると目に見えないコストが意外にかかっていることが分かります。そのようなコストを削減できることはメリットと言えるでしょう。

売手のメリットは,競争力の強化や資金調達などです。

例えば,自社の強みを活かすために,得意分野や成長分野に経営資源を集中させる必要があるときに他の事業部門を売却することが考えられます。事業承継の場合には,売却により資金を得られますし,従業員の雇用が維持できるなどのメリットもあります。事業再生を目的とする場合には従業員を優良部門に属させることで雇用の維持ができる場合もあり,これもメリットといえるでしょう。  

M&Aの手法

M&Aの手法は,株式譲渡などの株式の取得,事業譲渡,合併,会社分割,株式交換,株式移転があります。これらは,どれか一つという選択的なものではなく,それぞれのケースに応じて,複数の手法を講じる場合もあります。

まず,株式の取得は,最も単純かつ簡便な手法であり,実務上も多く利用されています。

次に,事業譲渡は,事業の一部を買収するときに利用されます。会社分割も同様です。合併が対象となる会社全体を受け入れるのとは対照的な手法です。

また,株式交換・株式移転は完全親子会社を形成する手法であり,株式交換は既存の会社を完全親会社とするのに対し,株式移転は完全親会社を新たに設立するという手続きです。

M&Aにおいて必要な契約

M&Aにおいて締結される契約は,概ね3つあります。1つは秘密保持契約,2つめは基本合意,3つめは最終的な合意契約です。  

秘密保持契約

契約交渉の過程では,当事者間で機密性の高い情報を互いに開示することが予定されています。交渉過程では,何が起こるか分かりません。場合によっては,交渉が決裂し,白紙に戻る場合もあります。万一,開示した情報が相手方に利用され又は第三者へ開示・漏洩されれば著しい損害を被ることもあります。そこで,秘密保持契約を締結しておくことが肝要です。また,M&Aを検討し,具体的な話合いを特定の企業としていたという情報自体も秘密にしたいという場合には,そのことも含めて契約を締結する必要があります。

基本合意

基本合意は,交渉を進めていく過程で買収価格,買収条件及びその方法やスケジュールなどについて買手と売手が一定の合意に達した段階で締結するものです。最終的に合意書を締結することが予定されている場合には,この時点における基本合意の内容は将来的に変動する可能性がありますので,そのことを予定した合意内容になるでしょう。そのため,一定の条項には法的拘束力を持たせないこともあります。

最終合意書

M&Aに関する交渉も大詰めを迎えた際には最終的な合意書を作成することになります。最終合意書ですので,取引対象の特定,取引価格といった基本的内容から両当事者に関し各々の内情や信用力,M&Aのスキームその他の状況に応じて様々な条項を設けることになります。当事者間においてリスクが顕在化した場合における将来紛争の回避を図るための条項も定める必要があるでしょう。

弁護士の役割

M&Aの最終的な合意書を作成する際には,様々な法律関係を整理し,的確に条項に落とし込む必要があります。多大な労力を掛けて進めてきたM&Aを最後の最後でふいにしてしまうことがないように,当事者双方の要望に応えられているかどうかや想定されうる紛争に的確に対処又は回避することができるかどうかなどを踏まえ,慎重に契約の条項を作成する必要があります。そのため,M&Aには,税理士や会計士,司法書士,コンサルタントなどと共に弁護士が関与することが一般的です。

実際に,M&Aを行う際には,各種専門家に相談をすると同時に弁護士にも相談・依頼することをお勧めします。

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