値上げに応じない取引先にどう対処すべきか

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弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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昨今、原料高がますます進展しています。ロシアによるウクライナ侵攻でサプライチェーンが混乱する中、急激に進む円安によって、特に製造業の事業者にとって原料高は深刻な問題となっています。 

特に、中小企業においては、こうした原料高によるコスト増は死活問題です。従来の取引単価では「売れば売るほど赤字」ということになりかねず、取引先と価格議をして取引代金を上げてもらうことが切実に必要となるでしょう。

もっとも、力関係で立場の弱い下請事業者から、親事業者に値上げ交渉をするのは簡単なことではありません。「それなら他に頼むからいいよ」などと言われ契約が打ち切られたりするのではないかと思うと、強く交渉することは極めて困難です。

こうした問題を規制する法律として、一つは、下請法があります。不当な値上げの拒否は、下請法が禁じる買い叩きに該当する場合があります。

また、これとは別に、こうした下請事業者の危機を救済する目的で、「下請中小企業振興法」という法律があるのをご存知ですしょうか。この法律は、立場の弱い中小企業が大会社と様々な交渉をすることを支援する法律です。

そして、近時の原材料高や人件費上昇などによるコスト増加分について、下請企業が価格転嫁をこれまで以上にしやすくするように、近時、基準が改訂される予定です。

ここでは、この下請中小企業振興法について見ていきます。

目次

下請中小企業振興法とは

下請中小企業振興法(以下「下請振興法」といいます)は、下請中小企業の体質を強化し、独立性のある企業への成長を促すことを目的とする法律です(下請振興法が適用されるには、同法2条で定義される「中小企業者」に該当する必要があることにご注意ください)。

同法は、次の5つの柱からなっています。

  1. 下請事業者、親事業者のよるべき振興基準の策定とそれに定める事項についての指導及び助言
  2. 振興事業計画制度及び同制度に基づく金融上の支援措置
  3. 下請事業者が連携して特定の親事業者への依存の状態の改善を図る特定下請連携事業計画制度
  4. 下請中小企業の取引機会を創出する事業者に対する金融上の支援措置
  5. 下請中小企業と親事業者との取引円滑化のための下請企業振興協会の充実・強化

改訂予定の「新」振興基準

近時、特に注目されているのは①の「振興基準」です。

振興基準とは、下請中小企業の振興を図るために、「下請事業者と親事業者が従うべき一般的な基準」です(下請振興法3条1項)。

その具体的内容は、経済産業大臣が定めることとされていますが、同法3条2項は以下の項目を列挙しています。

一 下請事業者の生産性の向上及び製品若しくは情報成果物の品質若しくは性能又は役務の品質の改善に関する事項

二 発注書面の交付その他の方法による親事業者の発注分野の明確化及び親事業者の発注方法の改善に関する事項

三 下請事業者の施設又は設備の導入、技術の向上及び事業の共同化に関する事項

四 対価の決定の方法、納品の検査の方法その他取引条件の改善に関する事項

五 下請事業者の連携の推進に関する事項

六 下請事業者の自主的な事業の運営の推進に関する事項

七 下請取引に係る紛争の解決の促進に関する事項

八 下請取引の機会の創出の促進その他下請中小企業の振興のため必要な事項

これらのうち、近時、特に注目されているのは「四」の「対価の決定の方法」です。

冒頭でご説明したとおり、原材料高や人件費上昇などの影響で、下請け企業にとって「増加するコスト」の「価格への転嫁」は死活問題ともいえる極めて重要な問題です。しかし、取引先の親事業者がすんなり応じてくれることはなく、結局、下請け企業でコスト負担の不利益を受け止めているということがよく見られます。

このような状況を問題視した経済産業省が、新たな振興基準改定案を策定し、7月から施行予定です。

この「新」振興基準では、親事業者に対して

①毎年9月及び3月の「価格交渉促進月間」などの機会を利用し、少なくとも年に1回以上の価格協議を行うこと

②労務費、原材料費、エネルギー価格等が上昇した下請事業者からの申出があった場合、遅滞なく協議を行うこと

③下請事業者における賃金の引上げが可能となるよう、十分に協議して取引対価を決定すること

などを求める内容となっています。

この振興基準は、親事業者に対し、①年に1回は必ず価格について下請事業者と協議を行い、②労務費・原材料費・エネルギー価格の上昇を理由とする下請事業者からの協議の申出には「すぐに」応じなければならず、③下請事業者が賃金引上げできるような取引対価にすること、を課しているのです。

値上げ交渉にあたって

この振興基準は、「一般的な基準」に過ぎず、義務ではなく、違反した場合に罰則や行政処分がなされるわけではありませんが、親事業者が振興基準に従わない場合には、主務大臣が親事業者に指導・助言を行うことがあります(同法4条)。

経済産業大臣から直接に指導・助言を受けることは、大会社であればあるほど望ましいことではなく、一定の効果が期待できます。紛争になってしまった場合にも、公益財団法人全国中小企業振興機関協会が設置する裁判外紛争解決手続(ADR)を利用することもできます。

また、中小企業庁も「下請Gメン」と呼ばれている取引調査員を倍増して、下請中小企業者を訪問してヒアリングをしたり悩みの相談を受けたりするなどして、下請事業者が振興基準に反した不当な取引を強いられないようにサポートしてくれます。(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/Gmenhoumon.htm)。このように、経済産業省は全面的に下請事業者をバックアップする方針を定めているのです。

値上げ交渉にあたっては、冒頭に触れた下請法も含め、こうした法規制や制度があることを念頭に置いて、これらを十分に生かしながら臨むことが大切です。

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