東京地方裁判所平成17年12月26日判決では、ノウハウが不存在であり、指導援助義務を果たしていないことを理由に、フランチャイズ契約の解除と損害賠償請求が認められました。この裁判例について、以下、説明します。
事案の概要
まず、事案の概要は、以下のとおりです。
Xらは、Yからオーストラリアで英語学習等のプログラムと提供するAと提携をして日本で児童英語教育を目的とする児童園のフランチャイズ校の展開を計画していることを聞き、Yとフランチャイズ契約(以下、「本契約」といいます)を締結しました。
しかし、Xらは、YがXらに対しマニュアルの供給、職員の採用及び教育等の児童園運営上のノウハウを提供する義務を怠ったとして、本契約を解除し、債務不履行に基づく損害賠償請求を求めました。Xらは、Yらがオーストラリアからの教師を派遣せず、予定されていた日本人スタッフへの研修も実施せず、運営のノウハウも提供しなかったばかりか、そもそも、Aと提携しておらず、また、何らの具体的な対応策も提案しなかったと主張したのです。
これに対して、Yは、Xらに対して、本契約に基づきロイヤリティ、ノウハウ侵害による損害賠償請求を求める反訴を起こしました。
裁判所の判断
裁判所は、次のような事実を認定しました。
・Xらはともに、幼児教育に関する資格はなく、子供を相手に何かを教えた、あるいは、英語を教えたという経験もなかった。
・Xらは、Yから、選定基準も指示されないまま英語の本を買いそろえるように指示された。 XらがYの指示にしたがって配布したチラシには、音楽、算数及びお絵描きを行う旨記載があるが、Yらは、何らの指導も受けておらず、テキスト等も受け取っていない。そして、このことは他の時間帯に関しても同様であった。
・本件児童園においては、オーストラリア人の教師を交えて開園のデモンストレーションを行うことになっていたが、オーストラリア人は来ず、BとCは、被告ら従業員から2人だけで研修を行うように言われた。その研修とは、講師もテキストもなく、Xらのうちの一人が自分の子供と踊ったり、絵本を読んだりし、被告らの従業員が「そんな感じでいいんじゃないですか」と言っている程度であった。
・本件児童園では、別の日にも研修を実施する予定であったが、Yは、Xらに対し、開園当日の流れを説明しただけであり、オーストラリア人は来ないこと、本件児童園の開園は、Xらの従業員2人だけで行うよう告げ、また、入園希望者の面接には、児童園側が入園する児童を選ぶという態度で接し、本件児童園に入ることがステイタスであることの意識を植え込むことが必要などと指導した。
・Xらの従業員は、本件児童園は、幼児の安全を確保し、生活の基本を教えるという保育園として最低限のことすら充たしておらず、英語教育についても何のノウハウもないと感じ、自分たちが中心となって開園することに不安を覚え、上司に対しその不安を訴えた。
・被告らが代替講師として派遣を依頼したのは「英語ネイティブ外国人スタッフ」であり、派遣を依頼した際、幼児教育の資格や経験のある者を指定したと認め得る証拠はない。また、この派遣依頼も9:00から16:00(内5時間ー6時間)であり、本件チラシにある「16:00-18:00」の時間帯に外国人が本件児童園にいるよう手配したと認め得る証拠はない。
上の事実関係からは、Xらが児童園の運営に対して素人であったのに対し、Yらは保育事業を営んでいる者あったこと、そして、YらがXに対して日本で児童英語教育を目的とする児童園を実施するに当たり、英語教育を行うために提供できるノウハウがそもそもYにないばかりか、そもそも、その根幹となる幼児を安全を確保し、生活の基本と教える保育園としての最低限のことを充たせるようなノウハウ等の提供もなかったことが読み取れます
裁判所は、認定した事実を基に、YはXらに対して、開園直前になっても、保育事業に必要なノウハウも日常生活の中で英語を吸収するノウハウも提供しなかったとしました。そして、本契約の重要な債務を履行せず、また、当時、Yにこの様なノウハウを提供する能力もなかったと判示して、契約の解除と損害賠償請求を認めました。
本件のポイントは、Yが提供すべき最も重要な保育に関するノウハウが提供されていないという点、もっと言えば、Yにそのノウハウが無いと認定された点にあります。
Yは、児童園の開設場所を選定する等債務を履行した旨を主張しましたが、これに対しては、最も重要な保育に関するノウハウが提供されていない以上、他の部分が履行されていたとしても債務を履行したとはいえないと判示しています。
以上のように、フランチャイズ契約の根幹である最も重要なノウハウの提供がない又は提供をする能力さえ無いという場合には、フランチャイザーの義務違反があるものとして、契約の解除や損害賠償が認められることがあります。