SOGIハラとは何か~経営者が知っておくべきLGBTの基礎知識

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弁護士 堀江 哲史

1979年 三重県桑名市生まれ
2002年 立命館大学法学部卒業
2010年 旧司法試験最終合格
2012年 弁護士登録(愛知県弁護士会所属/名古屋第一法律事務所所属)
2020年 ミッレ・フォーリエ法律事務所設立

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目次

LGBTとは

近年、LGBTという言葉をいろいろな場面で目にするようになりました。

LGBTというのは、L(レズビアン、女性の同性愛者)、G(ゲイ、男性の同性愛者)B(バイセクシュアル、両性愛者)、T(トランス・ジェンダー、性別違和)の頭文字です。時々、LGBTが「性的少数者の総称」であるかのような記載を見かけることもありますが、LGBT以外にも、アセクシュアル、ノンセクシュアル、Xジェンダーなど多様なセクシュアリティがあるため、「総称」というのは適切ではありません。

性的少数者の割合については、これまでにいろいろな調査がされています。例えば、電通ダイバーシティ・ラボ(東京)が2015年に行った、国内の成人約7万人を対象にした調査では、LGBTなどの性的少数者に当たる人は全体の7.6%という結果が出ています。

複数の調査をみると、概ね5%程度は、性的少数者に当たると思われます。5%というと少なく感じられるかもしれませんが、日本で多い名字の1位から3位である「高橋」、「鈴木」、「佐藤」の人の合計が約4%ですから、これよりも多いことになります。

そうであるにも関わらず、みなさんの知人(例えば従業員や、取引先等の関係者)を思い浮かべたとき、「高橋さん」「鈴木さん」「佐藤さん」の知り合いはいるけど、性的少数者の知り合いはいない、又は、これよりも少ないという方がほとんどではないでしょうか。

このことは、日本社会において、性の多様性が充分に認められておらず、自らのセクシュアリティをオープンにできない当事者が多いことの表れといえます。

このように、日本では、まだ性の多様性が充分に認められているとはいえませんが、近年、この分野に関する社会の制度や、企業の取り組みは、(これまでに比べると)大きな前進を見せています。

セクシュアリティが、個人の尊厳に関わる人権問題であり、性的指向や性自認を理由とする不当な取り扱いは差別に当たるということは、社会共通の認識になってきました。このような状況で、経営者がLGBTについて全くの無知であるということは、経営リスクであるとさえいえます。

そこで、LGBTについて、最低限知っておきたい基礎知識について、述べていきたいと思います。

性的指向と性自認の違い

上で「性的指向や性自認」と書きました。この概念は全く異なるものです。

性的指向とは、人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするかを表すものです。同性愛、異性愛、両性愛などは、この性的指向に関するものということになります。

同じ読み方の「性的嗜好(=何に対して性的に興奮するか)」とは異なる概念ですので、お気をつけください。

これに対して、性自認とは、自分の性別をどのように認識しているかということです。体の性と、性自認の間に食い違いが生じている状態(性別違和)の当事者がトランス・ジェンダーです。

つまり、LGBTというまとめ方をしているものの、実は、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイ・セクシュアル)は、性的指向に関するもので、T(トランス・ジェンダー)は、性自認に関するものであり、異なる次元の概念を並べた言葉であることがわかります。

性的指向と性自認は異なる概念ですので、トランス・ジェンダーには、異性愛者、同性愛者、両性愛者、その他の性的指向の当事者が、それぞれ存在することになります。

SOGIとは

このように、「LGBT」は、異なる次元の概念を並べた言葉であり、性的指向と性自認の混同を生みかねないという問題がありますが、それ以上に、LGBTという言葉を用いることによって、LGBTという少数者と、そうではない多数者を区別する概念であることや、LGBT以外の性的少数者がいることに触れられない概念であるという問題も指摘されています。

そこで、近年、SOGI(ソジ)という言葉が使われるようになってきました。SOGIは、性的指向と性自認のことです(Sexual Orientation and Gender Identity)。これに性表現(Gender Expression/見た目の性のこと)も加えて、SOGIEと表記されることもあります(読み方は同じです)。

このSOGIという概念は、私たちの誰もが、性的指向と性自認というセクシュアリティを持つのであり、その現れ方は様々であることを前提としています。このことには、「『LGBT』という私たちとは異なる人たちを守りましょう」ではなく、「全ての人がもっている『SOGI』という属性にかかわらず、平等に扱いましょう」という意味があります。

今後、国際社会でも国内でも、このSOGIという言葉も広がっていくと思われます。上に書いたような、根底にある考え方も含めて、知っておきたい言葉です。

SOGIハラスメント(ソジハラ)とは

SOGIと関連して、経営者がもう一つ知っておきたいのは、SOGIハラスメント(ソジハラ)です。

ソジハラとは、性的指向や性自認に関連して、差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの嫌がらせを受けることや、望まない性別での職場での強制異動、採用拒否、解雇など社会生活上の不利益を被ることをいいます。

例えば、男性同士が親しげに話しているのに対して「おまえらホモか」と言うことや、「女なんだからスカートをはけ」ということなどが、ソジハラに該当します。

この点について、厚生労働省はモデル就業規則を2018年1月に改正し、「性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場のあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことはしてはならない」という条項を新設しました(第15条)。この条項の解説では、「性的指向や性自認への理解を深め、 差別的言動や嫌がらせ(ハラスメント)が起こらないようにすることが重要です。」と書かれています。

先にも述べたように、経営者がLGBTについて全くの無知であるということは、このようなソジハラを看過してしまうという意味でも、経営リスクであるといえるでしょう。

性の多様性に関する従業員研修を行う企業も増えてきています。「LGBTについて知ることの大切さはわかったけれど、どうしていいかわからない」という経営者の方は、まず、社内研修を行うことをおすすめします。

後編では、LGBTを取り巻く社会制度や企業対応についてご説明します。

LGBTを取り巻く社会制度

LGBTなどセクシュアリティの多様性に関する日本の法制度は、充分なものではありません。法律としては、「性同一性障害特例法」と、それに関する手続規定があるのみです。この性同一性障害特例法は、戸籍上の性別の取り扱いを自認する性に変更することができるものですが、手術が必要であるなど要件が厳しすぎるという批判があります。加えて、戸籍上の性別の取り扱いだけで、当事者が抱えている問題が解決されるわけではないことも、注意が必要です。

上でご紹介したように、モデル就業規則でソジハラについて記載される他、いじめ防止基本方針の改訂で、LGBT生徒の保護の項目が盛り込まれるなど、行政の動きは進んでいます。また、同性カップルに、婚姻制度と同様の関係にあることを証明するパートナーシップ制度を導入する地方自治体が出てきています。

さらに、日本では、同性カップルの法律婚はできませんが、この状態が憲法違反であるとして、2019年2月に東京、大阪、札幌、名古屋で、国を相手にする裁判も起こされました(私は、名古屋の事件の代理人を務めています)。

このように、LGBTを取り巻く日本の社会制度は、まだ充分ではない段階ではあるものの、少しずつ性の多様性に配慮した社会に進んでいる状況にある、といえます。

LGBT と企業の対応

このような社会状況の中で、外資系企業・上場企業を中心に、LGBTフレンドリーを表明する企業が増えてきています。

顧客対応の点では、携帯電話の大手3社は、同性パートナーを家族割引の適用対象としています。また、保険会社でも、同性パートナーを生命保険の受取人にできたり、損害保険の「配偶者」に同性パートナーを含むとする商品が出てきています。住宅ローンでも、同性カップルでの共同ローンができる銀行が増えてきています。

また、従業員に対して、福利厚生に関して、同性パートナーを「配偶者」に含める企業や、採用において性の多様性を尊重する姿勢を打ち出す企業も現れてきています。

社内外における当事者のニーズに応え、選ばれる会社になるべく、LGBT、SOGIに関する社内研修を行う企業も増えてきています。

LGBT 対応に関する裁判例の紹介

最後に、企業のLGBT対応に関する裁判例を2つ紹介します。

(1)ゴルフクラブ入会拒否事件

ゴルフクラブへの入会を希望した女性が、性同一性障害特例法によって、男性から女性へ性別の取り扱いの変更をしていたことを理由に入会を拒否されたため,ゴルフクラブを相手どって慰謝料等の支払いを求めた事案で、一審、二審ともに、損害賠償請求を認めています(静地浜松支判H26.9.8)。

ゴルフクラブ側は、入会拒否の理由として、性同一性障害者の入会が、ロッカールーム,浴室等を使用する際などに不安感を抱くなどを挙げましたが,一審判決は、原告が「戸籍のみならず声や外性器を含めた外見も女性であったこと」「女性用の施設を使用した際,特段の混乱等は生じていないこと」から、「被告らが危惧するような事態が生じるとは考え難い」としています。

また、一審判決では、ゴルフクラブ側の対応を「自らの意思によっては如何ともし難い疾患によって生じた生物的な性別と性別の自己意識の不一致を治療することで,性別に関する自己意識を身体的にも社会的にも実現してきたという原告の人格の根幹部分をまさに否定したもの」と、強く批判しています。

(2)性同一性障害解雇事件

MtFの労働者が、服務命令に従わず、女性の服装などで出社し続けたことを懲戒解雇事由の一つとされた事案で、解雇を無効とした裁判例もあります(東京地決H14.6.20)。

判決では、企業側が当面の混乱を避けるため「女性の容姿をして就労しないことを求めること自体は、一応理由がある」としましたが、企業側が職場における混乱などを回避するための措置をとっていなかったなどとして、懲戒解雇を無効としました。

なお、「女性の容姿をして就労しないことを求めること自体は、一応理由がある」という点については、判決から15年以上たった現在では、違う認定がされる可能性も相当程度あると考えられます。

最後に

このように、会社としては、性の多様性を前提として、顧客サービスや、社員の対応、また、職場の意識啓発に努めていくことが求められるといえます。 この傾向は、今後さらに進んでいくと思われ、自社が適切に対応できるか、一度検討されてみるのはいかがでしょうか。一例として、企業のLGBTに対する取り組みを評価するPRIDE指標がありますので、ぜひ参考にしてみてください。

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