弁護士 山本 律宗
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令和3年4月21日にプロバイダ責任制限法の一部が改正されました。
総務省によれば、インターネット上の誹謗中傷などによる権利侵害についてより円滑に被害者救済を図るため、発信者情報開示について新たな裁判手続を創設するなどの制度の見直しを行ったとのことです。
経営者の皆様にとっても、自社の商品やサービス等に関する誹謗中傷等をインターネット上でされれば、商品やサービス等の評価が下がり、売上げにも影響しかねませんので、とても心配ですよね。そこで、プロバイダ責任制限法がどの様に改正されたのか、見ていくことで、万が一の時に素早く権利侵害を排除できるようにしておきましょう。
従来のプロバイダ責任制限法による発信者情報開示請求手続
従来の発信者情報開示請求の場合(匿名サイトからの発信者情報開示請求を想定)、匿名の発信者を特定するためには、まず、投稿が行われたサイト等の管理者に対してIPアドレスを開示してもらうことになります。
その上で、そのIPアドレスを管理しているプロバイダに対してIPアドレスの使用者について開示請求をすることになります。
任意に開示してもらえる管理者ばかりではありませんので、裁判手続を2度行うことが必要になる場合がありました。これはかなり迂遠であり、時間もかかってしまいます(少なくとも6ヶ月から9ヶ月といわれています。訴訟等の手続になれば1年以上かかることもあります。)。
時間がかかることでプロバイダの通信記録が保存期間の経過により消えてしまうこともありました。また、技術的な問題から開示されたIPアドレスだけではプロバイダを特定することができないということもありました。
改正プロバイダ責任制限法による発信者情報開示手続
2022年10月1日から施行された改正プロバイダ責任制限法による発信者情報開示手続は、以下の様な流れになります。
まず、サイト等の管理者に対してIPアドレスの開示命令を出すよう裁判所へ申し立てます。その際に、提供命令の申立ても併せて行います(これにより、プロバイダの名称等が申立人に知らされます。)。
次に、プロバイダに対して、発信者の住所及び氏名の開示命令を裁判所へ申立て、プロバイダが保有するアクセスログ等の消去を防ぐため、消去禁止命令を申し立てます。この手続を経て、申立人に対して発信者の住所氏名が開示されます。
ここまでをみると、結局、2回申立をしているのではないかと感じる方もおられると思います。確かにその通りで、手間が完全に省けているかというとそうでもありません。
しかし、管轄をする裁判所は、サイト等の管理者に対する発信者情報開示命令事件が係属している裁判所になりますので(専属管轄)、別々の裁判所に申立をしなければならないことも多かった従来の制度に比べ、スムーズに手続が流れていくことになります。もちろん、どの程度、時間的に短縮できるかは今後の運用に係っていますので、動向を見守る必要はあると思います。
商品やサービスへの評価の毀損を防ぐために
一般の中小企業にとって、プロバイダ責任制限法に関わるのは、発信者情報開示請求の申立人としてということになるかと思います。
企業における権利侵害の多くは、削除請求ではいたちごっこになるため、発信者を特定して発信者自身との間でトラブルを解決することが必要になる場合もあります。その意味で、こういった制度を頭の片隅に置いておくことは、自社の商品やサービスに対する評価を保全し、売上げ下落を防ぐために重要なことかと思います。