約束手形の廃止について

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弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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約束手形による取引

約束手形をご存知でしょうか。

約束手形とは、手形の発行者(振出人)が受取人に対して、特定の期日までに所定の金額を支払うことを約束する支払手段です。

手形には「約束手形」と「為替手形」の2種類がありますが、企業が取引先への支払いに猶予期間(支払サイト)を設けるために特によく利用されるのは「約束手形」です。手形を利用して支払いまでの期間を延ばすことで、発注した会社は資金繰りの負担が軽減され、手元の資金が不足していても事業の継続が可能になります。

しかしその一方で、受注側の会社は、代金の支払いが先になることから、資金繰りなどに支障が生じかねません。なので、当然ながら、手形取引は双方が「手形でよいですよ」と合意した場合のみに行われます。

しかし、例えば発注者が大企業で、受注者が中小企業である場合など、力関係が対等でない場合には、受注者が発注者に逆らえず、要請されるまま手形取引を行うということがあります。「支払が先になるのは困る」と手形取引を拒むと、注文自体を失いかねず、そうなると小規模な会社にとっては存続の危機にもなり得ますので、資金繰りが悪化するリスクを承知しながら、やむを得ず手形取引に応じる、ということがあるのです。

以前に比べて手形取引はずいぶんと減りましたが、今でも手形取引は行われています。そして、支払いが先になることから経営が悪化する受注者の中小企業も少なくありません。

このように、手形取引というのは、受注者に大きな負担となります。

約束手形は2026年に利用廃止の方向で検討

こうした事情を踏まえて、経済産業省は「取引適正化に向けた5つの取り組み」のうちの一つとして「約束手形の2026年までの利用廃止」を掲げています。

その実現に向けて、中小企業庁が中心となって具体的なロードマップが作成され、各事業団体に対して約束手形利用廃止実現のための自主行動計画を作成させ、順調にいけば2026年11月には、手形交換所における約束手形の取扱いが廃止される見通しです。

約束手形廃止の理由

このように、行政庁が主体となって、約束手形の取引廃止を推進するのは、約束手形取引が、特に力関係の弱い取引先において大きな負担となっている現実があるからです。

一つ目に、約束手形が「支払に猶予期間を設けるため」であることから、納品する側の業者としては、原材料を仕入れ人件費をかけて制作した商品の対価を得られるのが先になることで、資金繰りが逼迫します。特に規模の小さい会社ほど、その負担は大きいものとなります。中には、支払サイトが60日を超える長期の約束手形取引が行われることもあり、その結果納品業者が倒産することも珍しくはありません。

このような、資金繰り負担の不当な押し付けが問題とされているのです。

二つ目に、約束手形を決済する場合には、取立手数料は受取人が負担するという慣行があります。また、期限前に現金化することもできるのですが、その場合(割引)には、割引料としてさらに受け取る金額が減少します。こうしたコストも受取人が負担しています。

三つ目に、約束手形が紙であるために、紛失や盗難などのリスクも受取人が負います。印紙代や郵送費などもかかります。

このような負担から、約束手形を受け取る側の事業者のほとんどが「約束手形取引はやめたい」と考えていながら、取引先との力関係や業界の商慣習などの理由からやむなく応じているという事業者が少なくありません。こうしたことが問題視され、今回、約束手形取引の廃止が国策として推進されることになったのです。

すでに約束手形取引の自粛が要請されていること

このように、いろいろな問題がある約束手形取引は、将来の廃止に向けた取り組みだけでなく、現時点でも中小企業庁によって取引の自粛が呼びかけられてます。

中小企業庁は、2021年3月、関係事業者団体に向けて

 「下請代金の支払いは可能な限り現金で行うこと」

 「手形等により下請代金を支払う場合は、手形等の現金化に係る割引料等を下請事業者に負担させることがないよう、これを勘案した下請代金の額を十分に協議して決定すること」

「親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化に係る割引料等のコストを検討できるよう、本体価格分と割引料相当額を分けて明示すること」

「下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること」

などを可能な限り速やかに実施するよう呼び掛けています。

このような状況ですから、もし仮に取引先から、不当に不利益な内容の約束手形取引を強要された場合には、今の時点においても、それを拒絶するよう強く交渉することもできるのです。その場合には、事前に弁護士などの専門家に相談されるのが良いかと思われます。

 

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