社員の不祥事と会社の使用者責任

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弁護士 堀江 哲史

1979年 三重県桑名市生まれ
2002年 立命館大学法学部卒業
2010年 旧司法試験最終合格
2012年 弁護士登録(愛知県弁護士会所属/名古屋第一法律事務所所属)
2020年 ミッレ・フォーリエ法律事務所設立

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①女性社員の夫から、会社に対して、「妻と会社の上司とが不倫をしていることがわかった。会社は、どう責任をとってくれるのか。」という連絡がありました。こうした社員の不祥事について、会社はどのような責任を負うのでしょうか。

②女性社員から、「職場の飲み会で、上司から繰り返しセクハラに遭っている。上司と会社に損害賠償請求をする。」と言われました。飲み会は、業務時間外に、会社の外で行われたもので、また、参加が強制されていたわけではありません。それでも、会社が責任を負うのでしょうか。

③男性社員が、通勤中の電車の中で痴漢行為をして逮捕されました。この場合に、会社は、責任を負うのでしょうか。

目次

社員の不祥事と会社の責任

会社は、従業員の不祥事について、損害賠償などの法的責任を負うのかという点について、まず、一般論から考えてみましょう。

結論から言えば、従業員が、会社の業務に関して、第三者に対して、損害を与えた場合には、会社が損害賠償責任を負う可能性があります。

根拠となる法律は、民法715条で、会社が負う責任を「使用者責任」といいます。

民法715条は、

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う

と規定しています。

会社は、従業員の活動によって利益を上げている以上、従業員が与えた損害についても責任を負うべきという考え(報償責任)や、従業員の活動について起こり得る危険を支配している者が責任を負うべきという考え(危険責任)から、このような条文があります。

会社は、どのような場合に使用者責任を負うのか

1 「他人を使用する者」 ⇒ 使用関係があること

まず、会社が責任を負うのは、当該行為者との間で使用関係がある場合です。

この使用関係は、雇用契約(労働契約)であることが通常ですが、それに限られるわけではありません。実質的な指揮・監督関係があれば、委任契約や、元請人と下請人の間にも、使用関係が認められます。

また、一時的な使用関係や、使用者の活動が非営利目的であっても、使用関係は認められます。

2 「事業の執行について」 ⇒ 使用者の事業の執行について行われたこと

次に、その行為が使用者の事業の執行について行われたことが必要です。

その行為が、従業員の職務の執行そのものである場合に、「事業の執行について」といえることは間違いありませんが、それだけではありません。職務執行行為そのものではなくても、その行為の外形から、職務の範囲内の行為に属するものと認められる場合にも、この「事業の執行について」といえると言われています。

例えば、会社の車を、無断で私用運転して交通事故を起こした場合に、私用運転が「事業の執行について」なされたものと判断された裁判例もあります。もっとも、会社の車を使えば、全て「事業の執行について」に該当するわけではありません。具体的な事案によって結論は変わってきますので、慎重な検討が必要なところです。

3 「第三者に加えた損害」 ⇒ 従業員自身にも不法行為が成立すること

使用者責任の前提として、従業員の行為自体が、不法行為の用件を満たしている必要があります。

不法行為責任については、わざとやった場合だけでなく、過失がある場合にも、不法行為が成立する可能性があることに注意が必要です。

4 民法715条1項但書に当たらないこと

民法715条1項但書は、「使用者が被用者の選任及び監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」は、使用者責任が成立しないと定めています。

もっとも、例外的な規定ですので、会社が「相当の注意をした」と認められるのは、なかなか困難であるのが実情です。

本件で、会社は使用者責任を負うか

以上を前提にして、最初の質問について考えてみます。

1 不貞行為

不倫(不貞行為)は、違法ではあるものの、あくまでも私的な交際関係ですので、「事業の執行について」には当たりません。そのため、使用者責任は成立しません。

2 セクハラ

職場外での飲み会で行われた女性社員に対するセクハラも、「事業の執行について」に当たるとされた裁判例があります。

もっとも、セクハラが全て「事業の執行について」に該当するわけではなく、具体的な事案によって変わってきますので、慎重な検討が必要なところです。

3 痴漢行為

通勤中とはいっても、痴漢行為は「事業の執行について」には当たるとは言えません。そのため、会社が使用者責任を負うことはありません。

ただし、従業員の犯罪は、それ自体、会社にとっては重大な案件ですので、警察への捜査の協力や、被害者への対応、取引先への対応等、適切に対応する必要がある場合も少なくありません。

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