パワハラの判断基準

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弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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近時、職場においてパワハラやセクハラなどが問題となることが増えています。特に判断が難しいのがパワハラです。

目次

パワハラの定義

厚生労働省は、「職場のパワーハラスメント」について

同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為

と定義しています。

注目すべきは、パワハラとは「職場内の優位性を背景に」したものであるということです。

つまり、「優位性を背景にしない」行為は、「職場のパワーハラスメント」にはあたらないということになります。

その一方で、「優位性」とは必ずしも職場内の役職や年齢を絶対的な基準とするものではありません。部下や年下であっても職場内で優位的な地位にある場合には「パワハラ」に該当する場合があります。

叱責とパワハラ

では、上司から部下への叱責はすべてパワハラかというと、そういうわけではありません。

上記の厚生労働省の定義でも、パワハラは「業務の適正な範囲を超え」たものとされています。

ここでいう「業務の適正な範囲」はどこまでか、というのが難しい問題となります。

その基準は、その職場の慣行や慣習、業務の種類など、様々な要素を総合的に考慮し、社会通念(社会的相当性)に照らし合わせて判断されることとなります。

なので、 業務上必要な指示や注意・指導が、口頭で伝えられる限りにおいては、直ちにパワハラとなるわけではありません。

しかし、それらの指示や注意、指導が叩く、蹴るなどの暴行を伴っていれば、パワハラと認定される可能性は格段に高まるでしょう。同様に、直接的な暴行でなくても脅しや侮辱、ひどい暴言やその人の名誉を著しく損なう言葉などは、精神的な攻撃としてパワハラに認定されることもあります。

たとえこれらのことがこれまで職場で「慣習」として行われてきたことであったとしても、社会通念に反する以上はパワハラとなるのです。

その他にも、厚生労働省は「職場のパワーハラスメント」の類型として「人間関係からの切り離し」(隔離・仲間外し・無視など)、「過大な要求」(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)、「過小な要求」(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)「個の侵害」(私的なことに過度に立ち入ること)などを挙げます。

いじめやプライバシーを侵害する行為だけでなく、過大な業務を強制したり、その逆に不当に業務をさせないことも、パワハラに当たりうることにご注意ください。

裁判例における判断基準

裁判例も、パワハラ行為に対する違法性の判断は一様ではありません。

殴る蹴るなどの行為は、たとえ業務上の指導であってもパワハラと認定される傾向にありますが、暴行を伴わない粗暴な言動や過剰な指導などに留まるケースでは「違法とまではいえない」などとしてパワハラと認定されないことが多い傾向にあります。

一概にはいえませんが、パワハラという概念が今ほど注目されていなかった昔の裁判例はパワハラを認定しない裁判例が多く、パワハラ固有の問題や特徴が周知された近時の判例ほどパワハラが認定されやすくなっているという傾向があります。しかし、その判断基準は必ずしも一律ではありません。

パワハラ規制法の制定

このようにパワハラというのは基準がわかりにくいことなどから、過去に比べてパワハラという概念が浸透した現在においても、パワハラ被害の報告は減るどころか増える一方で、現在では深刻な社会問題になっています。

このような経緯から、パワハラを法律で規制するという動きがあり、2019年5月29日に、パワハラを含めたハラスメントを規制する「女性活躍・ハラスメント規制法」(仮称)が国会で可決され、成立しました。この法律は、2020年4月から施行され、パワハラ対策が義務化されます(中小企業は最初の2年間は努力義務、その後は義務化)。

この法律ではパワハラの要件として「(1)優越的な関係を背景に(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により(3)就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)」の三要件を制定し、防止するための具体的な取り組みを事業主が行うよう義務づけられます。

今後は「どういった行為がパワハラになるか」は、上記の法律を基準として判断されることになります。上記法律に罰則は定められていませんが、民事上の損害賠償などのトラブルが発生した際に「違法な行為」という裏付けが生じることになります。

パワハラ対策

上記の通り、今後は来年に施行されるハラスメント規制法を基準として、当該行為がパワハラとして違法かどうかが判断されるようになることが予想されます。特に「業務上必要かつ相当な範囲」とはどのようなものか、は微妙で悩ましい問題です。

経営者や上司としては、部下などに対する叱責や指導が「不必要なものでないか」「不相当に課題ではないか」などを常に意識しておくことが望ましいといえます。

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