弁護士 堀江 哲史
2002年 立命館大学法学部卒業
2010年 旧司法試験最終合格
2012年 弁護士登録(愛知県弁護士会所属/名古屋第一法律事務所所属)
2020年 ミッレ・フォーリエ法律事務所設立
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女性従業員から「上司にセクハラをされている」という訴えがありました。その従業員は、会社にも責任があると話しています。
代表者である私は、セクハラについては初耳だったのですが、会社としては、どのような対応をすべきでしょうか。また、この従業員は言うように、会社にも責任があるのでしょうか。
セクハラによって会社が負う責任とは
従業員のセクハラによって、会社は民法上、不法行為責任(使用者責任)、債務不履行責任(安全配慮義務違反)という、責任を負う可能性があります。
使用者責任とは、従業員が職務の執行について行った不法行為について、会社が責任を負うというものです。
これに対して、安全配慮義務違反は、労働環境を調整する義務を怠ったという会社自身の責任が問われるものです。
また、このような民法上の責任のほかに、男女雇用機会均等法上、セクハラ防止のための措置を行わず、是正指導にも応じない場合には、企業名を公表される可能性があります。
会社の使用者責任について
会社は、従業員が「職務の執行につき」セクハラを行った場合には、原則として民法715条1項による使用者責任を負い、被害者に対し損害賠償をしなければなりません。
セクハラ行為が「職務の執行につき」といえるかは、個々の事案によって異なりますが、例えば、新人歓迎会の二次会の場で行われたセクハラについて、「勤務時間終了後に職場外の場所で行われたものではあるものの・・・被告会社の業務に近接してその延長において行われたものと評価でき、被告会社の職務と密接な関連性が」あったとして、職務執行性を認めた裁判例があります。
このことからすると、セクハラ行為の職務執行性については、比較的認められやすいと考えておいた方がよさそうです。
民法715条1項の但書には、会社が従業員の監督について相当の注意を尽くしていたような場合には免責されるとされていますが、会社にとっては難しい立証となることが多いと思われます。
会社の債務不履行責任について
使用者には、雇用契約の他方当事者である従業員に対して、快適な職場環境を確保するように配慮する義務があるとされています(労働契約法第5条参照)。
そして、男女雇用機会均等法第11条は、職場において行われる性的な言動によって労働者が不利益を被ったり、就業環境が害されたりすることのないよう、必要な措置を行う義務を、使用者に課しています。
このことから、従業員からセクハラの訴えがあるのに、これを放置した場合には、債務不履行責任が成立する可能性があります。
また、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)には、セクハラに関して、使用者が講ずべき措置について書かれているので、これを行っていなかった場合には、具体的な訴えがなかったとしても、債務不履行責任が成立する可能性があるので、注意が必要です。
賠償額
では、セクハラによって使用者責任、債務不履行責任を負う場合、その損害賠償額は、いくらになるのでしょうか。
これは、行為の内容や、退職の有無等、事情にはよりますが、50万円~300万円くらいの金額が多いようです。しかし、悪質な事案では、更に高額になる可能性もあります。
また、慰謝料のほかにも、休業に対する賃金の支払義務や、PTSDなどの後遺障害によって労働能力が一部喪失したと認められる場合には、将来の逸失利益といった経済的損害の賠償責任が発生する場合もあります。
会社がとるべき対応
従業員からセクハラの訴えがあった場合、絶対に放置をしてはいけません。まずは、迅速に調査を開始し、事実関係を正確に把握することが不可欠です。具体的には、セクハラを訴える者と、セクハラをしたとされる者の、双方から事実関係を確認することです。その上で、双方の話が一致せず、事実の確認ができない場合には、第三者からも意見を聴く必要があります。
聞き取りの際には、セクハラを訴える者に、二次被害を与えないことにも留意した方がよいでしょう。
調査の結果、セクハラの事実の確認できた場合には、セクハラをした者に対する処分のほか、配置転換等によって、被害者の不利益や就業環境の回復を図ることが重要です。
また、使用者の措置義務が十分であったかを検討し、再発防止策を講じることも、使用者が安全配慮義務を履行したということにつながります。
おわりに
このように、セクハラに対する使用者の責任は、以前に比べて厳しいものとなっているため、セクハラが発生してから対応をしていては遅いのです。
社内でセクハラが発生しないことが一番ですが、セクハラを起こしてしまったときに、使用者が責任を問われないためには、相当な措置を講じておく必要がありますので、注意してください。