社長が交通事故に遭ったときに会社は損害賠償請求できるのか

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弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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私は、社員が3人だけの小さな会社を経営していますが、先日、車を運転中に追突され1ヶ月入院しました。その間、私の収入が途絶えたのはもちろんのこと、会社の業績も大きくダウンして大損害が生じました。

しかし、相手の保険会社は、私の収入の休業損害は支払うけれど、会社に生じた損害については支払わないというのです。会社の経営者が交通事故に遭った場合、会社に生じた損害は請求できないのでしょうか。

目次

直接損害と間接損害

交通事故によって生じた損害は、直接損害と間接損害に分類されます。事故の被害者に直接生じた損害を直接損害、事故の被害者以外の第三者に間接的に生じた損害を間接損害といいます。

会社の社長や役員、従業員等が交通事故の被害者となった場合に、被害者自身ではなく会社に生じた損害は、間接損害にあたります。企業損害と呼ばれることもあります。

いくら会社は事故の直接の被害者ではないとはいえ、経営者や役員が事故等で休職すれば、会社に損害が生じるのも当然と思われます。このような会社の間接損害の賠償を加害者に請求できるか、が問題となります。

民法上の損害の範囲の考え方

結論からいうと、間接損害の賠償を請求することは難しいと考えられます。

一般に、交通事故などの不法行為による損害の範囲については、相当因果関係の範囲を定める民法416条が類推適用されると解されています。

そして、同条1項の「通常生ずべき損害」は通常損害、同条2項の「特別の事情によって生じた損害」は特別損害などと呼ばれますが、実務上はこれらの損害の範囲はかなり限定的に解されていて、間接損害がこれらの損害として認められた裁判例は少ないのです。

この理由については、間接損害を広範に解すると損害が無限に広がりかねないこと、交通事故の加害者は416条2項の「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたとき」との要件を満たさないことがほとんどであること、などが考えられます。

被害者にとっては理不尽な話ですが、交通事故では被害者が経営するあるいは勤務する会社の損害は認められ難いというのが実情です。

間接損害が例外的に認められる場合

とはいえ、いかなる場合でも間接損害が認められないというわけではなく、裁判例も、次のような場合には会社の損害を間接損害として認めています。

経済的に会社と代表者が一体の関係にある場合

例えば社長以外に役員や従業員がいないなど「社長=会社」といえるような場合は、社長が交通事故にあえば会社にも損害が生ずるのは必然です。このように「経済的に会杜と代表者とが一体をなす関係にあるとき」には、裁判例でも、会社が代表者の受傷により生じた損害を加害者に請求できるとしています(最判昭和43年11月15日)。

「経済的に会杜と代表者とが一体をなす関係」は、社長1人だけしかいない会社に限られるわけではありません。他に役員や社員がいる場合にも、社長が会社にとって極めて重要な役割を担っているなど、社長の受傷による会社の損害が必然といえる関係にある場合には、会社の損害が認められる場合も有り得ます。

会社に損害を与える目的で危害を加えた場合

416条2項が「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたとき」には損害賠償を請求できると定めているように、会社に損害を与えることを目的として加害した場合(交通事故では考えにくいですが)には、会社に生じた損害は416条2項の特別損害として賠償を請求できるでしょう。

立証は容易ではない

このように、会社の代表者や役員の交通事故によって生じた会社の損害を加害者に賠償することは難しいと考えられています。

例外的に認められるとしても、被害者と会社が経済的に一体をなす関係にあること等の立証責任は被害者が負いますが、立証は決して容易ではありません。被害者の休業損害とは別に生じた会社の損害が被害者の休業によって不可避的に生じた、ということを証明するためには多大な立証の労苦と専門的な知識が不可欠です。

会社の損害を加害者に請求しようとする場合には、まずは弁護士に相談されることをお勧めします。

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