無断運転による交通事故と会社の責任

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弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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社員が、会社の社有車を無断で休日に使用している際に、他の車に追突して相手をケガをさせる交通事故を起こしました。  こうした場合にも、会社が責任を問われることがあるのでしょうか。

目次

使用者責任と運行供用者責任

例えば、業務中に会社の車を使用していた社員が交通事故を起こした場合には、会社あるいは事業主は民法715条が定める「事業のために他人を使用する者」にあたるので「被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」ことがあります。

では「事業の執行」ではない場合には、会社または事業主が責任を負うことはないかというと、そうとは限りません。

事業の執行にあたらなくても「自己のために自動車を運行の用に供する者」つまり「運行供用者」に該当する場合には、自動車損害賠償保障法3条に基づき、自動車の所有者である会社あるいは事業主が損害賠償責任を負うことがあります。これを「運行供用者責任」といいます。

運行供用者とは何か

運行供用者責任を負う「運行供用者」とは、自賠法では「自己のために自動車を運行の用に供する者」とされていますが、該当性の判断は難しい問題です。判例では「運行支配があるか」「運行利益があるか」などを基準とします。

自動車の所有者は「運行支配があるもの」として、運行供用者にあたるとされています。なので、例えば自動車の所有者である会社が、社員に対して休日の社有車の使用を許諾していた、あるいは黙認していたという事情がある場合には、会社は社用車の運行を支配しており、また福利厚生的な意味で社員が社有車を使用することについて会社も利益があると解されるので、運行供用者と解されるでしょう。

運行供用者責任の具体的な内容

運行供用者に該当する場合には、自賠法3条により、その車の運行によって「他人の生命又は身体を害したとき」に賠償責任を負います。人身損害のみが対象となり、物的損害が対象とならない点が、前述の使用者責任と大きく異なるところです。

運行供用者責任と自賠責保険の関係

運行供用者責任を定める自動車損害賠償保障法は、自賠責保険と連動するものですが、必ず一致するものではありません。

例えば、事故で相手が死亡して、損害賠償額が5000万円と認定されたとします。「自賠責保険に入ってるから大丈夫」かというとそうではありません。死亡損害に対する自賠責保険の補償額の上限は3000万円なので、それを超える金額については運行供用者が賠償しなければならないのです。

もっとも、上限を超える金額は自動車損害賠償保障法という法律に基づいて生じる損害賠償義務なので、任意保険の対象となります。なので、会社がしっかりと任意保険に入っていれば、損害賠償金は保険から支払われることになります。

無断使用の場合

では、社員が会社の車を「無断で」「休日に」使用していた場合はどうでしょうか。

使用者責任については、「もはや使用者の指揮命令による支配を離脱していた」と評価されるので、使用者責任が否定された裁判例があります。(通勤中の事故と会社の責任

しかし、使用者責任が否定される場合でも、運行供用者責任が認められる場合があります。

判例では、内規に反して農協の車を無断で使用した組合員が交通事故を起こした事例で

  • 自動車及び鍵の管理は従来から必ずしも厳格ではなかったこと
  • 就業時間外に上司に無断で自動車を運転したことがよくあったこと
  • 無断使用を封ずるための処置がされていなかったこと

などを理由に、農協は「運行供用者」にあたり、自賠法3条によって損害賠償責任を負う、としたものがあります(最高裁昭和39年2月11日)。

どう対策するか

なぜ自賠法が運行供用者に重い責任を負わせるかというと、自賠責制度が被害者救済を目的としているからです。

もし、会社の車を社員が無断で使用した場合に会社が賠償責任を負わないとなると、社員だけが賠償責任を負うことになってしまい、社員が無保険の場合に被害者が賠償による救済が得られなくなってしまいます。そのような事態が生じないようにするために、自動車損害賠償保障法は賠償責任者の範囲を広く規定し、その代わり自賠責保険を強制加入する制度にして、被害者救済を図っているのです。

以上のとおり、使用者責任と異なり、運行供用者責任を免れることは容易ではありません。

なので、金銭面でもっとも有効な対策は、解釈の車には自賠責保険だけでなく任意保険にも加入しておくこと、ということになります。

とはいえ、会社が損害賠償義務を負うことは金銭面以外の不利益もあります。なので、使用者責任と同様に、社員が会社の車を無断で私用に用いることを明確に書面などで禁じ、さらに定期的なチェック、監視などを行うことも有効な対策となります。

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