下請法の「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」が認められた事例

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弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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下請法(正しくは「下請代金支払遅延等防止法」)4条2項第3号では、元請け会社が下請け会社に対して「不当な経済上の利益の提供」要請を要請することが禁じられています。典型的には、金銭や労務などの提供の要請を禁止するものです。

下請法に違反した場合には、罰金等の罰則や検査などの他、違反事実の内容が公正取引委員会のHPに公開されることがあります。(下請法の概要や適用要件などについては、こちらをご参照ください→下請法とは何か

今回は、自動車大手メーカーの下請け会社に対する「不当な経済上の利益の提供」違反の事例をご紹介します。(令和3年3月19日公開)

目次

経緯

自動車大手メーカー(M社と呼びます)は、自社が販売する自動車の部品のボルトやナットに加工される鋼鉄製資材を、下請け会社複数社(A社らと呼びます)に発注していました。

そしてA社らは、M社とは別の会社(B社らと呼びます)からも、同様の鋼鉄製資材の発注を受け、納入することがありました。

そして、B社らとA社らの取引が生じるたび、M社はA社らに対して、取引実績に応じた手数料を請求していました。それら手数料の合計は、直近1年間の合計で5千万円以上にのぼったとのことです。

この、A社らからM社に支払われた手数料が、下請法4条2項第3号のて「不当な経済上の利益の提供」に該当すると認定されたのです。

事情

公表された事実から推測するに、A社らは、B社との取引に応じた手数料を毎年毎年、特に支払う理由もないのに(仲介契約などもないのに)M社に支払っていたと考えられます。おそらくこの慣習は、過去数十年にわたり行われていたものと思われます。

A社らとしては「なぜM社に手数料を支払わなきゃならないんだ」と考えたことでしょう。もしM社が主要取引先でなければ、A社らは支払いを拒んだと思われます。しかし、M社は、A社らにとって大口の重要な取引先だったことから、A社らはM社に逆らうことができず、やむを得ずM社の云われるがまま、手数料を支払ってきたと思われます。

このように、力関係(取引関係)を利用して、元請け会社が下請け会社に、不当な(理由のない)経済上の利益(手数料)を支払わせることを、下請法4条2項3号は禁止しているのです。

対策

こうした事例において、M社への手数料を「理由がない。下請法違反だ」ということは、A社らにとっては勇気がいることです。なぜなら、A社らはM社から大量の仕事を受けているので、M社に睨まれるとA社らに仕事が発注されなくなり、A社らの経営が傾くことすら有りうるからです。

しかし、こうした事態が生じないよう、下請法は告発されたことによる元請け会社の報復措置も禁止しています(4条1項7号)。

本件においても、M社は、A社らに対して、仕返しとして取引量を減らしたり不利益な取り扱いをすることはできないのです。このように下請法は、力関係を利用した元請け会社による下請け会社イジメが生じないようにしているのです。

なお、本件事例は公正取引委員会により公開され、広く報道された結果、M社が「事態を重く受け止め、深く反省している。法令順守体制を強化し、再発防止策の徹底に取り組む」とコメントしています。このように、M社だけではなく、広く公開、報道されることによって業界全体の下請けイジメを抑制する効果も生じるのです。

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