
弁護士 堀居 真大

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定期的に部品を納めている大口取引先が、突然、下請けである当社に対して、既に発注済みの商品も含めて一方的に代金を減額する旨を通告してきました。抗議しても「品質が低い」「競争が厳しい」「当社も経営が厳しいので一緒に耐えてほしい」などと言って取り合ってくれません。このような扱いには何か法的に問題は無いのでしょうか。
元請け会社がその立場を利用して下請け会社に一方的な不利益を強いることを禁止する法律として、いわゆる「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)という法律があります。
下請法は、立場の弱い下請事業者にとっては、自らの身を守るために大変有益な法律です。
下請法の適用対象
まずは、下請法の適用対象となるかどうかを確認してみましょう。
下請法の適用対象となるかどうかは
①取引の内容
と
②資本金の区分
という二つの側面から決まります。
下請法の適用対象となる取引とは
下請法の適用対象としては、
①製造委託
②修理委託
③情報成果物作成委託
④役務提供委託
という4つの取引類型があります。それぞれの意味を見ていきます。
製造委託
物品を販売し、または物品の製造(加工を含みます)を請け負っている事業者が、他の事業者に、その物品や半製品、部品、原材料等の製造を委託する場合などを指します。
例えば、家具メーカーが、商品の家具に用いる部品の製造を他の事業者に委託するような場合です。
修理委託
物品の修理を請け負っている事業者が、その修理の全部または一部を他の事業者に委託する場合などを指します。
なお、物品の修理を請け負っている事業者が、修理に必要な部品や原材料の製造を他の事業者に委託するような場合は、上の製造委託の類型になります。
情報成果物作成委託
情報成果物を提供したり作成を請け負っている事業者が、他の事業者にその情報成果物の作成の全部または一部を委託する場合などを指します。
「情報成果物」という表現が少し分かりづらいかもしれませんが①プログラム(各種ソフトウエア等)や、②映画、放送番組、CMなど③設計図、ポスターのデザイン、雑誌広告などがこれにあたります。
役務提供委託
役務(サービス)の提供を請け負っている事業者が、他の事業者にその役務の提供を委託する場合を指します。ただし、建設業を営む事業者が請け負う建設工事については、建設業法が適用されますので、除かれます。
下請法の対象となる資本金区分
下請法は、事業者間の力の大小を背景に不公正な取引が行われることを防ぐことを目的としていますので、下請法の適用対象か否かにあたっては、それぞれの事業者の資本金(出資金)の大小が問題となります。
製造委託・修理委託の場合
製造委託・修理委託については、次の場合に下請法が適用されることになります。
「資本金の額または出資の総額が3億円を超える法人」が、「個人」または「資本金の額もしくは出資の総額が3億円以下の法人」に対して委託する場合
「資本金の額または出資の総額が1000万円を超え、3億円以下の法人」が、「個人」または「資本金の額もしくは出資の総額が1000万円以下の法人」に対して委託する場合
情報成果物作成委託・役務提供委託の場合
情報成果物作成委託・役務提供委託については、その取引内容によって異なってきます。
まず、情報成果物作成委託・役務提供委託のうち、プログラムの作成、運送、物品の倉庫保管及び情報処理に関わるものについては、上記の製造委託/修理委託の場合と同じです。
これに対して、それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託については、次の場合に下請法が適用されることになります。
「資本金の額または出資の総額が5000万円を超える法人」が、「個人」または「資本金の額もしくは出資の総額が5000万円以下の法人」に対して委託する場合
「資本金の額または出資の総額が1000万円を超え、5000万円以下の法人」が、「個人」または「資本金の額もしくは出資の総額が1000万円以下の法人」に対して委託する場合
本件では・・・
以上を前提として、本件をみると、「定期的に部品を納めている大口取引先」とありますので、製造委託に該当すると思われます。
そこで、元請け会社の資本金額を確認して、元請け会社の資本金の金額が3億円を超え、かつ、下請会社(当社)の資本金が3億円以下であるか、元請け会社の資本金が1000万円を超え、かつ、下請会社(当社)の資本金が1000万円以下であれば、下請法が適用されることになります。
下請法と下請代金減額の禁止
下請法では、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずることを禁じています(下請法第4条1項3号)。
そのため、元請け会社が一方的に、発注時に決定した下請代金を減額してきた場合には、下請け会社は元請け会社に対して「下請法違反である」と主張することができます。
元請会社が「次の代金に上乗せする」「今後は発注する仕事を増やす」などと説明しても、下請法の明文に反することに変わりはなく、違法です。
買いたたきの禁止との関係
なお、上記は、発注時に決定した下請代金を減額してきた場合ですが、将来に向かって下請代金を一方的に減額する場合については、「買いたたきの禁止」違反の問題となります。
つまり、下請法は、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」を禁じていますが(下請法第4条1項5号買いたたきの禁止)、これに違反しうるのです。
買いたたきについては、次の記事で解説しています。

減額の名目は問わない
さて、発注時に決定した下請代金を減額する場合、その減額の態様は様々です。
単に代金の金額を減額する場合に限らず、例えば「販売協力金」「金利相当額」「協賛金」等の名目を作り、その費用を下請代金から差し引いたりする場合があります。
しかし、名目はどのようなものであれ、これらは実質的には下請代金の減額に該当しますので、下請法違反です。
下請会社が承諾をした場合でも違法
元請け会社が、その優位な立場を利用して、下請け会社に減額を無理やり「承諾」させることがあります。このような場合でも(仮に承諾書面を作成していても)やはり下請法違反であることには変わりません。
不良品があることによる減額
また、よくあるのが「不良品である」「完成度が低い」など、あたかも合理的な理由があるかのように説明して下請代金を減額する場合です。このような場合にも、当該理由が正当なものでない場合には「不当な減額」として下請法違反となります。
もっとも、下請け業者に責任がある場合、例えば納入した製品に重大な瑕疵があり契約を履行したと言い難いような場合には、「下請事業者の責に帰すべき理由がない」とはいえず、不当な減額にもならない場合がありますのでご注意ください。
下請代金減額の禁止違反と勧告・公表
下請代金減額の禁止違反と認められると、公正取引委員会は、元請け会社に対して、減じた代金を支払うなど必要な措置をとるべきことを勧告するとともに、会社名や違反事実の概要、勧告の概要等をホームページで公表しています(近年では森永製菓株式会社も「下請け代金の減額禁止違反」として公表されました)。
また、勧告に至らなくても、公正取引委員会は、元請け会社に対して、下請法の遵守を促す行政指導を行います。
下請法違反として公正取引委員会が下請法7条に基づき行う勧告のうち最も多いのがこの「代金減額」です。下請代金の減額は元請け会社にとってもっとも簡単かつ効果的なコスト削減方法であり、下請け会社も今後の取引の支障などから不平を言い辛いという事情があるからです。
しかし、このような元請け会社の横暴は社会的公平に反するものであり、こうした行為を規制するために制定されたのが下請法です。
元請け会社からの報復を恐れてなかなか声を上げずらいという現実もあるかもしれませんが、下請け企業に対する報復措置自体も同法で禁じられています(4条1項7号)。また、こうした法令違反を行う企業に対する社会的視線も年々厳しくなっています。
元請け会社の不当な代金減額に対しては、諦めることなく、弁護士に相談するなどして、毅然とした対応をすることをお勧めします。
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