賃貸借契約における敷引特約とは

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弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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事務所が手狭になり、新しい事務所に移転することになりました。

契約時には保証金として200万円を預けていましたが、部屋もそれほど汚れていないことから、そのほとんどが戻ってくると思っていました。

しかし、退去時に戻ってきた保証金は予想より100万円ほど少ないものでした。大家によれば、賃貸借契約書に「契約終了時に保証金の5割を償却する」と記載されているので、200万円うち半分の100万円は帰ってこないというのです。「保証金を償却する」とはどういう意味でしょうか。こうした契約書は一般的なものなのでしょうか。

目次

敷金とは

賃貸借契約を新たに締結する際には、未払い賃料や原状回復費用を担保するため、契約時にまとまったお金を預けることが一般的です(原状回復とは何かについては、こちらをご覧ください≫賃貸借契約における原状回復の適正な範囲とは)。このようなお金は「敷金」「保証金」などと呼ばれます(ここでは統一して「敷金」と呼ぶことにします)。

敷金は、賃借人が賃料などを滞納したり、退去するときに原状回復義務を果たさなかった場合に、その費用に充てるため賃貸人が賃借人からあらかじめ預かっておく性質のものです。なので、賃料の未払いや原状回復義務の未履行がなければ、敷金は賃貸借契約終了時に全額が賃借人に戻されるのが原則です。

敷引特約とは

しかし、物件によっては、たとえ賃料の未払いなどがなくても、契約終了時に敷金の一部が自動的に差し引かれるという特約が賃貸借契約書に記載されている場合があります。例えば「契約終了時には、敷金の半分を償却する」「敷金の半分は返還しないこととする」などの条項です。

こうした特約は「敷引特約」などと呼ばれ、法人契約などによくみられます。このような敷引特約は、敷金の一部を返さなくてすむわけですから、大家にとっては都合のいいものです。しかし、理由なく敷金の一部が帰ってこなくなるわけですから、賃借人にとっては理不尽な内容です。

敷引特約は有効か

このような特約が有効かどうかについては、昔から問題視されていました。

判例も、度が過ぎた敷引特約は消費者契約法10条などを理由に無効とするものが多数あります。ただ、法人契約の場合は、法人は消費者契約法が保護の対象とする「消費者」に原則として該当しないことから、個人の場合と比べて「無効」と判断されにくいと考えられています。

しかし、そもそもこのような敷引特約は、賃借物件の空きが少なく大家の立場が強かった頃の特約であり、今では必ずしも応じなければならないものではありません。1割や2割の償却率であればともかく、3割や5割を超える償却率の敷引特約を定める賃貸借契約は、賃借人にとっては極めて不合理なものです。

もし、新たに賃貸借契約を締結する際に、賃貸借契約に敷引特約が定められていた場合は、同特約を変更するよう大家あるいは管理会社に強く交渉することをお勧めします。もし応じてくれないのであれば、どんなにその物件が魅力的なものであっても、他の物件を探すことを検討されるべきでしょう。

もし、既に契約を締結してしまっている場合にも、その内容が極めて不合理な場合(例えば償却率の割合が5割を超えるなど)には、あまりにも社会通念に反するとして、信義則に反して無効と主張する余地があります(もっとも、無効となる見込みは契約の内容によりますので、まずは弁護士などにご相談されることをお勧めします)。

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