賃貸借契約における原状回復の適正な範囲とは

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弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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事務所が手狭になったので、新しい事務所に移転することになりました。しかし、退去時に大家さんから壁紙の張り替えやクリーニングなど、高額の修繕費用を請求されました。それほど長期は使用しておらず、部屋はほとんど汚れていません。このような費用も支払う必要があるのでしょうか。

目次

原状回復とは

賃貸借契約が終了する際には、賃借人は賃貸人に対して、借りた部屋を掃除するなどして返還する義務を負います。この義務は「原状回復義務」などと呼ばれます。

このような原状回復義務は、借りた物を返すという賃貸借契約の性質上自然なことであり、ほとんど全ての賃貸借契約に規定されています。

しかし、賃貸借契約に定めれらる内容は必ずしも同一ではありません。契約書の内容によっては、物件の返還の際に、賃借人に重い負担を課す内容となっている場合も少なくありません。

原状回復をめぐるトラブル

例えば、賃貸借契約書の「原状回復」の項目や特約事項等に「賃借人は、退去時には、ハウスクリーニング費用、壁紙クロス貼り換え費用など、賃貸人が負担する」などと記載されている場合です。

このような契約の場合には、いくら賃借人が退去時に部屋をキレイに掃除して元通り同様の状態にしたとしても、大家や管理会社から「契約書に規定されている」ことを理由にクリーニング費用等を請求されてしまうのです。

さらに、こうした場合は大抵「クリーニングなどは賃貸人が指定した業者で行う」などとされている場合が多く、こうなるとクリーニング費用や修繕費用も高額となり、敷金が戻ってくると思っていたら逆に追加請求された、ということもよくあります。

苦情を申し立てても、大家や管理会社は、契約書に明記されていることを盾にして応じないでしょう。では、契約書に記載されている以上は、大家がいうとおりの費用を負担しなければならないのでしょうか。

国土交通省が定めるガイドライン

このような退去時の原状回復費用に関するトラブルは、昔からありました。そこで、国土交通省は原状回復に関する基準を定める原状回復をめぐるトラブルとガイドラインを公表しました。

このガイドラインでは、原状回復は「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されました。

つまり、原状回復義務とは「賃借人に落ち度のある損耗・毀損を復旧する義務」であり「借りた当時の状態と全く同じ状態に戻す義務」ではないのです。

したがって、年月を経ることで自然に生じる損耗や、普通に使用していることで発生する損耗は、賃料に含まれているのであり、退去時に賃借人が元に戻す義務は負いません。特に賃借人に責任のある損耗(例えばタバコのヤニ、何かをぶつけた凹み等)ではない限り、壁紙やクロスを張り替える義務もないのです。

対応について

このガイドラインが制定されてからは、多くの賃貸借契約は原状回復義務を同ガイドラインの内容に準拠するようになりました。しかし、一部の物件では、同ガイドラインを無視した旧態依然の契約内容となっているものも散見されます。

ですので、できれば賃貸借契約締結時に、契約書が定める原状回復義務の内容が国土交通省のガイドラインに準じたものであることをしっかり確認することが重要です。もし、契約書の内容が国土交通省のガイドラインに準じていないことに気が付かず、退去時に法外な退去費用を請求されたとしても、国土交通省が上記のようなガイドラインを示しているのですから、あまりに過大な退去費用であれば無効となる可能性があります。このような場合には、弁護士などにご相談されることをお勧めします。

賃貸借契約を巡ってはこんな問題もあります。
賃貸借契約における敷引特約とは

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