契約書のない契約の効力

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弁護士 堀江 哲史

1979年 三重県桑名市生まれ
2002年 立命館大学法学部卒業
2010年 旧司法試験最終合格
2012年 弁護士登録(愛知県弁護士会所属/名古屋第一法律事務所所属)
2020年 ミッレ・フォーリエ法律事務所設立

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法律相談の中には、契約書は作っていないが、たしかに約束はしたので、約束を果たしてもらいたい、というものがしばしばあります。このような場合に、約束を果たしてもらうことはできるのでしょうか。

目次

契約書がなくても契約は成立している

多くの契約の場合、「契約書」のような書類がなくても、契約の内容について、当事者同士の合意があれば、契約は成立します(例外として、保証契約や婚姻契約など、口約束だけでは成立しない契約もあります)。

売買契約や請負契約など、財産にまつわる契約の多くは、口約束だけでも成立するので、ご相談を受ける事例でも、契約が成立していると「思われる」場合は、多くあります。

契約書を作成する理由

それでは、口約束だけで成立する契約の場合、契約書がなかったとしても、契約の内容を相手に求めることは可能なのでしょうか。

残念ながら、契約書がない場合には、相手が契約の成立を否定すると、その内容を相手に求めることは、とても難しくなります。

契約の成立について、お互いの話が食い違って裁判になった場合、口約束があったということを訴えたとしても、それだけでは契約が成立していたと認められることは、大変少ないからです。

契約書は、当事者が契約の内容について合意した、つまり契約が成立したことを証明する、とても有力な証拠です。きちんと作られた契約書であれば、それだけで、契約の成立があったと認められる可能性がぐっと高まります。

メールのやりとりや、会話の録音など、契約書以外のものでも、契約が成立した証拠にならないわけではありませんが、契約書ほどは、有力な証拠と言えないことがほとんどです。

また、形に残っていない口約束はもちろんのこと、メールのやりとりや会話の録音では、お互いが考えている合意の内容がはっきりしないことも多くあります。

そのため、契約書を作成した上で、その内容については、第三者が見ても一義的に(他の解釈ができないように)明確にすることをおすすめします。

契約書を作る際の基本的な注意点

では、契約書を作る場合に、どのような点に注意をすればよいでしょうか。

内容が特定されているか

契約書は、契約の成立を証明する書類です。そのため、契約の内容が特定されていることが重要です。

どのような場合に特定されているといえるかは、上に書いたように、契約当事者以外の第三者から見ても、明確であるかどうかが判断基準となります。

契約の当事者では、当事者が法人なのか、代表者なのか、特定されているでしょうか。契約の内容に関わる当事者が複数いる場合、漏れがないかも注意が必要です。

また、相手にやってほしいこと、当方がやらなければいけないことは、明確になっているでしょうか。当方がやらなければいけないことが、よくわからない場合、当初考えていたよりも、無理な要求をされるかもしれません。

用語が統一されているか

内容の特定ともかかわりますが、使われている用語が統一されているかも大切なポイントです。

同じ契約書の中で、同じものを意味する用語が、複数あると、それぞれ違うものを指しているとの誤解が生じます。同じものを意味する用語は統一するようにしましょう。

また、そもそも用語の解釈が曖昧な場合は、契約書の中で「定義づけ」を行うこともあります。

守れない契約はしない

意外と多いのが、相手から無理な要求がされる可能性があるのを見過ごして契約をしてしまうことです。

業界の常識などから、「こんな無理な要求をしてくるはずがない」と思っていても、いざ要求をされてしまうと、争うことは難しくなりますので、守れない契約はしないことが大切です。

おわりに

このように、契約書がある場合と、ない場合とでは、相手が契約の成立を否定する場合に、約束を果たすよう求めることができる可能性が大きく変わっています。契約書は、必ず作るようにしましょう。

そして、契約書が有力な証拠であるということは、いったん署名・押印をしてしまうと、その内容を争うことは、とても難しくなります。

「こんなつもりじゃなかった」「よく読まずに判子を押してしまった」は通用しないので、契約書を作るときには内容をよく読んで、わからないことは、専門家に相談することをおすすめします。

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