弁護士 堀居 真大
1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属
交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。
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取引業者との契約書や賃貸借契約書などでは、契約書の最後尾に「合意管轄」という項目があります。例えば、次のような条項です。
「本契約に関連して、甲乙間に紛争が生じた場合には、●●地方裁判所を専属的管轄裁判所とする。」
このような条項は「合意管轄」(または「専属的合意管轄」)条項などと呼ばれます。
契約書案に記載されていると、なんとなく「そういうものか」と思って見過ごしがちな条項ですが、紛争になった時には重大な意味を持つ条項でもあります。ここでは、このような合意管轄条項の意味や、定め方にあたっての注意点について解説します。
専属的合意管轄とは何か
合意管轄とは、一言でいうと「当事者間で裁判になった場合に、どの地域の裁判所で裁判をするかを当事者間で決めること」です。
どの裁判所が管轄となるかは、裁判の種類によって民事訴訟法に細かく決められているのですが、当事者の合意があれば管轄の裁判所を決めることができるとも定められています(民事訴訟法11条)。特に「専属的」合意管轄とある場合は、管轄裁判所は合意された裁判所だけでしか行えないことを意味します。
例えば、契約代金に関する裁判の場合には、民事訴訟法が定める管轄は
・相手(被告)の住所地(4条)
・義務を履行すべき場所(5条1項)
のどの地域を管轄する裁判所で裁判を起こすか選ぶことができますが、「専属的」合意管轄の場合は、合意された裁判所でしか裁判できないということになります。
管轄裁判所を決めることの意味
では、裁判所を決めておくことにどのような意味があるのでしょうか。
例えば、あなたの会社の本社所在地が名古屋市で、取引先の会社は支店が名古屋にあるけれど本社は東京だとします。このような場合、取引先の会社は契約書の合意管轄条項に「東京地方裁判所を専属的管轄裁判所とする」と記載するでしょう。
そうなると、あなたの会社が取引先の会社とトラブルになって、あなたがその会社を訴えるとするならば、東京地方裁判所に訴状を提出しなければならないことです。合意管轄条項に「裁判になったら東京地方裁判所で裁判をする」と合意されているからです。
しかし、名古屋在住のあなたにとって、東京の裁判所で裁判をすることは大きな負担です。一方、相手方にとっては本社がある東京で裁判をすることは有利に働きます。
このように、紛争が生じた場合の争いやすさが、どの地域の裁判所で裁判をするかによって大きく変わってしまうのです。
契約書にどう記載すべきか
以上の通り、合意管轄条項は、紛争が生じた場合に、どちらに有利な裁判所で裁判をするかを定めるものですから、本社が同じ地域にない当事者間では重要な意味を持ちます。
もっとも、普通当事者は「自分の本社があるところを管轄にしたい」と思うものですから、どちらも管轄について「自分の本社所在地だ」と言って譲らなければ、管轄合意自体ができないということもあるかと思います。
そのような場合には、例えば「訴えを起こされる側の所在地を管轄とする」という合意をすることもできるでしょう。
もっとも、大手企業などは、合意管轄は本社所在地とする、と譲らない会社が多いです。そのような場合には、訴訟となる可能性の高さなどを考慮して契約するかどうかを決めるより他ありません。