弁護士 山本 律宗
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時効制度は,ある事実状態が所定の期間継続した場合に,その事実状態に対応する権利関係を認める制度です。権利関係を認めるにあたり,事実状態が真実の権利状態と一致している必要はありません。
そのうち,消滅時効制度は,ある権利が行使されない状態が継続した場合に,その権利の消滅を認めるものです。
中小零細企業において,売掛金などの回収は,企業生命を左右する重大な業務です。万一にも時効期間を徒過し,債権回収ができなくなり,資金繰りに窮するなどと言うことがないようにここで一度整理をしておきましょう。
また,民法改正により,時効制度のうち,消滅時効に関する部分は大きく改正がなされました(施行は平成32年4月からです)。これについても併せて確認をしていきたいと思います。
現行民法の消滅時効について
現行民法では,消滅時効を援用できる期間について,権利を行使することができる時から10年間を原則としています。
例外として,
- 医師,助産師又は薬剤師の診療,助産又は調剤に関する債権並びに工事の設計,施工又は監理を業とする者の工事に関する債権(工事終了時から起算)については3年間
- 生産者,卸売商人又は小売り商人が売却した産物又は商品の代価にかかる債権(いわゆる売掛代金債権など),自己の技能を用い,注文を受けて,物を制作し又は自己の職場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権は2年間
- 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価にかかる債権,運送賃に係る債権,旅館・料理店・飲食店・貸席又は娯楽上の宿泊料・飲食料・席料・入場料・消費物の代価又は立替金にかかる債権並びに動産の損料(貸本,貸ふとん,貸衣装,レンタカーなどの日常生活において短期間に限って手軽に行われるもの)にかかる債権は1年間となっています。
また,不法行為による損害賠償請求権については,「被害者又はその法定相続人が損害及び加害者を知った時から3年」又は「不法行為の時から20年」と定められています。
なお,後者の「不法行為の時から20年」は,除斥期間と言い,法律上は時効とは区別されます。除斥期間の場合には,時効の中断(改正民法では「更新」と名称が変わります。)がなく,当事者が援用する(時効消滅による利益を受ける者がその利益を受ける旨の意思表示をいいます。)ことを必要としません。
改正民法の消滅時効について
改正民法では,現行民法の規定をわかりやすくする趣旨で,以下のように改正されました(平成32年4月から施行されます)。
現行民法では細かく時効期間が分けられていましたが,それを取っ払い
- 債権者が権利を行使できる事を知った時から5年が経過したときか
- 権利を行使できる時から10年が経過したとき
に,債権が時効により消滅するとして,債権の種類によって時効期間を分けるのをやめました。そして,商事債権を5年とする現行商法の規定も改正して削除され,原則上記①と②に統一されます。
また,新たに,生命・身体侵害に関する条文が定められ,この場合には,上記②が20年に変更されます。
不法行為に基づく損害賠償請求権は
- 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間
- 又は不法行為の時から20年間行使しないとき
に時効によって消滅するとされました。
一見すると現行民法と違いが無いようにも見えますが,不法行為時から20年間の期間制限が除斥期間から消滅時効期間に変更される点で異なっています。
こちらも新たに生命・身体侵害に関する条文が定められており,①が5年間に変更されます。
民法改正による影響
これまで,中小零細企業においては,商事債権の消滅時効期間とこれよりも短い期間を定めた現行民法規定の規定に気を付けるということでしたので,今後も余り影響はないように思います。
あるとすれば,消滅時効期間が長期化することにより,帳簿の保管等を今までよりも長期間保管した方が良いということでしょう。
民法改正により,民法がよりわかりやすくなったのかという点についての評価は様々でしょうが,少なくとも変更点だけはおさえておく必要がありそうです。