消滅時効の中断のためにすべきこと

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弁護士 山本 律宗

2014年12月 弁護士登録(愛知県弁護士会所属)/名古屋第一法律事務所所属

取引先に対する売掛債権について消滅時効が完成してしまいそうなとき,どうすれば良いのでしょうか。

消滅時効の完成を妨げる方法として,現行民法においては時効の中断という手段があります。

時効の中断は,時効進行中に時効の基礎となる事実状態の継続が破られたことを理由にそれまで進行してきた時効期間を時効完成にとって全く無意味なものにする方法です。つまり,今まで経過した時効期間をリセットして新たに時効期間を数え始めるということです。

具体的にどのようなことをすれば,時効の中断となるのかについて,以下で詳しくみていきます。

目次

現行民法の時効の中断と停止について

現行民法では,時効の中断事由として,「請求」,「差押え,仮差押え又は仮処分」及び「承認」をあげています(民法147条)。

請求とは

ここで,「請求」とは,

  1. 裁判上の請求
  2. 支払督促
  3. 和解及び調停の申立
  4. 破産手続等への参加
  5. 催告

を指します。

5の催告を除けば,いずれも公的な手続を利用するものであり,最終的には裁判所の命令や書面等によって債権の存在と内容が明らかになるため,時効の中断が認められるのです。

要するに,時効期間が経過してしまいそうなときには,いち早く,弁護士に相談して,民事訴訟における訴えの提起や和解及び調停の申立てをしてしまうことで,時効の中断をすることができるということです。

とはいえ,訴えの提起や和解及び調停の申立てが時効期間経過が差し迫っているときにいきなりできるとは限りません。

そこで,生きてくるのが5の催告です。

催告とは,権利者が義務者に対して義務の履行を求める意思の通知です。要するに,売掛債権について,(裁判などを起こすのではなく,単に)「支払ってください」と要求することを指します。

これは,債権者に裁判上の請求など他のより強力な時効中断の効果を有する手段をとるために6ヶ月の時間的猶予を与えるものです。そのため,その期間内に債権者がそれらの手続をしなければ,催告は時効中断の効果を生じません。

差押さえ,仮差押え又は仮処分とは

「差押え,仮差押え又は仮処分」のうち,「差押え」は,裁判所への申立てにより,債務者の財産の処分を禁止し,その財産を確保する手続きです。

差押えをするためには,判決などによって,債権の存在が確定していることが必要となります。

また,「仮差押え又は仮処分」は,将来的に強制執行による権利の実現等を図るために、財産の現状維持を図る手続きです。

権利者が債権の実現に向けて公的手段に自ら訴えたことを意味するため,時効中断事由として認められています。

債務の承認

以上は,公的手続を権利者がとることを前提としていますが,それとは異なり,債務者側が一定の行動をすることにより,時効が中断することもあります。それが,「承認」です。

承認は,時効の利益を受けるべき者が時効によって権利を失うべき者に対して,その権利の存在を認識している旨を表示することです。承認により権利の存在が当事者間で明確になるため,時効中断効が認められるのです。

承認は,公的手続による必要は無く,また,明示的にされる必要もありません。そのため,債務者が利息の支払いをしたことや債務の一部の弁済は残額についての承認となります。

ですので,消滅時効期間が経過してしまいそうなときには,債権債務関係を書面にて明らかにした上で債務者から当該債権債務関係があることを認める旨の署名・押印をもらっておく,利息だけでも支払ってもらう,一部の弁済をしてもらうなどの手段をとっておくことも有効です。

ただし,債務者の行為を当てにしなければいけませんので,債務者の協力が得られることが必要となります。

民法改正~消滅時効の完成猶予と更新

改正民法において,時効の中断は,時効の更新と読み替えが行われました。実質的には,現行民法のルールを変更するものではないので,注意すべき点は前記と代わりません。そこで,重要な部分のみを指摘します

まず,改正民法では,①「裁判上の請求」,②「支払督促」,③「民事訴訟法第275条1項の和解又は民事調停法(括弧内省略)若しくは家事事件手続法(括弧内省略)による調停」及び④「破産手続参加,再生手続参加又は再生手続参加」のうち,いずれかの事由がある場合には,その事由が終了するまでの間は時効が完成しません。

この場合,確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは,時効は各事由が終了した時から新たにその進行を始めることになります。

なお,確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定すること無くその事由が終了した場合にあっては,その終了の時から6ヶ月を経過するまでは時効が完成しません。また,裁判等により確定した権利の消滅時効期間は,現行民法と同様10年です。

次に,改正民法148条は,強制執行等による時効の完成猶予及び更新の規定を設け,①「強制執行」,②「担保権の実行」,③「民事執行法(括弧内省略)第195条に規定する担保権の時効としての競売の例による競売」,④「民事執行法196条に規定する財産か維持手続」のいずれかの事由がある場合には,その事由が終了するまでの間か,申立の取り下げ又は法律の規定に従わないことによる取り消しによってその事由が終了した場合にあっては,その終了の時から6ヶ月を経過するまでの間は,時効は完成しません。

各事由がある場合には,時効は各事由が終了した時から新たにその進行を始めます。

また,改正民法149条は,①「仮差押え」,②「仮処分」のいずれかの事由がある場合には,その事由が終了した時から6ヶ月を経過するまでの間は,時効は完成しないとしています。

改正民法においても「催告」のルールは変わらず,現行民法の解釈を明確にする規定(催告によって時効の完成が猶予されている間に再度の催告をしたとしても再度の催告には時効の完成猶予の効力はない旨の規定)が追加されただけです(改正民法150条)。

改正民法の変わり種としては,改正民法151条として協議を行う旨の合意による時効の完成猶予という条文が加わったことです。

すなわち,権利についての協議をおこなう旨の書面合意があった場合には,合意から1年間を経過した時(これより短い期間を定めたときはその期間を経過した時)に時効が完成し,それまでは時効の完成が猶予されるのです。

また,協議合意により時効の完成が猶予されている間に繰り返し協議合意を行った場合は,当初の時効期間満了予定時から5年を超えない範囲で再度の完成猶予の効力をもちます。

これに対し,催告によって時効の完成が猶予されている間に協議合意をしても,その協議合意により時効の完成は猶予されません。同様に協議合意によって時効の完成が猶予されている間に催告をしても,その催告により時効の完成は猶予されないとされています。

この規定の使い勝手はわかりませんが,「催告」の制度との関係で混乱を生じるかもしれませんし,そもそも協議合意ができるのであれば,債権債務関係についても争いが無いのではないかとも思われるので,どのような活用方法ができるのか更に検討をする余地があるでしょう。

民法改正による影響について

時効の中断及び中止(時効の更新及び完成猶予)に関し,民法改正が与える影響は極めて限定的です。

民法改正により,協議をおこなう旨の合意による事項の完成猶予という制度は,無用な訴訟提起の負担を減らすという効果があるとの指摘もあるようですが,そもそもその様な協議が行えるのであれば「承認」が行われるでしょうし,時効を巡る紛争が生じることもないと思いますので,どこまで意味のある制度かは疑問が残るところです。

いずれにしても現行民法及び民法改正の基本的なところをおさえ,債権管理に活かす必要があります。

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