譲渡制限株式とその譲渡方法

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弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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「株式の譲渡制限」規定とはどのようなものでしょうか。私は現在、会社を設立しようと考えていますが、その際に株式の譲渡制限の規定を定めたほうが良いのでしょうか。

また、譲渡制限のある株式を誰かに売るためには、どのような手続きが必要となりますでしょうか。

目次

譲渡制限株式とは

譲渡制限株式とは、株式を譲渡によって取得することについて、当該株式会社の承認が必要である旨が定款で定められた株式のことをいいます。具体的には、定款に「当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会(あるいは取締役会)の承認を受けなければならない」という内容の規定を定めます。

本来、株式は自由に譲渡できるのが原則ですが(会社法127条)、このように承認が必要とすることによって、譲渡が制限されることになるのです。

株式譲渡制限は、すべての株式について定めることもできますし、一部の株式について定めることもできます。株式譲渡制限がされている場合の株式を譲渡制限株式といい、すべての株式に譲渡制限に関する規定がある会社のことを株式譲渡制限会社といいます。

また、会社のすべての株式が譲渡制限株式である会社のことを「非公開会社」といいます。一方で、一部でも譲渡制限株式ではない株式がある会社は「公開会社」と呼ばれます。

譲渡制限を定める意味

なぜ、株式の譲渡の際に株主総会などの承認を受けなければならないようにするかというと、その理由は「会社が望まない人物に自社の株式を持たせないようにするため」です。

「会社が望まない人物が自社の株式を持たないようにするため、株式の譲渡自体を禁止できないか」というと、これはできません。先に述べたとおり、会社法は原則として、株式を自由に譲渡することができることを大原則としているからです。

しかし、株式の譲渡が完全に自由となると、例えば親族で経営している会社などにおいて、何かのきっかけで経営に非協力的な人物が株主になったりすると、事業が円滑に進まなくなる可能性があります。

株主はたとえ少数株主であっても、株主総会の招集や帳簿の閲覧などの形で会社経営に干渉することができます。一定の割合の株式を保有されれば役員を解任され別の役員を選任されたり、場合によっては会社を解散されてしまうこともあります。

そこで、「株式を譲渡により取得する際には、株主総会等の承認を受けなければならない」などと定めることで、会社経営に好ましくない人物が株主となることを防ぐのです。

なお、株主を被相続人とする相続が発生した際にも、譲渡制限規定があれば、見知らぬ相続人が株主になることを阻止することができます。具体的には、定款で定めておけば、会社は相続人に対して相続発生後1年以内に株式の売渡を請求することができ、被相続人はこれを拒むことができません(会社法174条以下)。(詳しくはこちら⇒譲渡制限株式に相続が発生した場合にどう対応すべきか

非公開会社のメリット

すべての株式が譲渡制限株式である会社、つまり非公開会社においては、一部の手続きが簡略化されるというメリットもあります。具体的な内容は以下の通りです。

取締役会を設置しなくてもよい

公開会社は、取締役会と監査役を必ず設置しなければなりませんが、非公開会社においては設置する義務はありません(もちろん設置しても構いません)。なので、取締役の人数も、取締役会を設置するのであれば3人の取締役が必要ですが、非公開会社の場合は取締役は一人でも構いません。

このことによって、無理に形だけの役員を設置する手間もなく、意思決定を迅速に行うことができます。

取締役の任期が最大10年まで伸ばせる

取締役の任期は原則2年ですが、非公開会社の場合は10年まで延ばすことができます(ただし、定款にそのように定めておく必要があります)。

中小企業の場合は、取締役が頻繁に交代することはあまりありませんが、公開会社だと取締役の任期が2年なので、2年ごとに株主総会にて選任手続をしなければなりません。しかし、非公開会社の場合は、あらかじめ定款に定めてさえおけば、取締役の選任手続きは10年ごとにすればよく、手間が省けます。

株主総会招集手続きが1週間前でよい

株式会社においては、会社は定時株主総会を、毎年招集しなければならないことになっています(会社法296条)。定時株主総会以外でも、会社法が定める重要な手続き、例えば役員の選解任や資本金の額の変更等については、臨時で株主総会を開いて決議を得なければなりません(会社法309条等)。

そして、株主総会はただ開催すれば良いのではなく、株主総会の日の2週間前までに、議題等を記載した招集通知を株主へ発送しなければなりません。

この「招集通知の発送の期間」の規定は厳しいもので、もし期間までに招集通知を発送していなければ、せっかく開催された株主総会もあとで取り消されてしまうことが有り得るのです。

こうした厳しい招集通知の発送期間の要件も、非公開会社にしておけば、株主総会日の2週間前ではなく1週間前となります(取締役会を設置していなければ、定款で定めることでさらに短縮することも可能です)。

その他のメリット

この他にも、株券の発行は株主から請求されてからでよい、取締役会を設置しても会計参与を置けば監査役は設置しなくてよい、定款で取締役を株主の中からしか選べないように定めることができるなど、手続き上の利点が多数あります。

これらはいずれも、会社の意思決定を迅速にして、手間やコストを削減するものですので、特に公開会社にしておかなければならない理由がないのであれば、非公開会社にした方がメリットが大きいといえます。

承認なく譲渡制限株式を譲渡したらどうなるか

譲渡制限規定が定款に定められているのに、株主総会等の承諾なく株式を譲渡した場合、その効力はどうなるでしょうか。

これについて判例は「承認のない株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効である」と定めています(最判昭和38年6月15日)。

つまり、当事者間で売買や担保等どのようなやりとりがなされようと、会社には関係ない、ということになります。当然、譲り受けた株主から株主名簿の書換えを要求されても、会社は拒むことができます。

譲渡制限の規定は会社の登記情報であり、譲渡制限規定があるかどうかは法務局で確認できますので、譲受人が「そんな規定があるなんて知らなかった」と主張しても、株主としての地位を主張することはできません。

譲渡制限株式を譲渡するのに必要な手続き

譲渡制限株式を勝手に譲渡することはできず、定款に定められた手続きを行う必要があります。

多くの会社が定める手続きは「取締役会の承認を得る」あるいは「株主総会の承認を得る」のいずれかだと思いますが、その他の細かい規定を定める会社もありますので、譲渡制限株式を譲渡する場合には必ず定款の内容を確認されることをお勧めします。同規定の内容は登記されていますので、現在事項証明書などで確認できます。

譲り渡す者からの譲渡承認請求

具体的な手続きとしては、株を譲渡しようとする株主が会社に対して、他人に株式を取得させることについて承認するか否かの決定を請求することになります(譲渡承認請求)。

このときには、①譲渡する株式の数、②株式を譲り受ける者の氏名又は名称を明らかにする必要があります(会社法138条1号)。

譲り受けた者からの譲渡承認請求

既に当事者間で株式の譲渡が行われてしまった場合にはどうすればよいでしょうか。

判例では、会社に承認を得ずに譲渡制限株式を譲渡した場合、譲渡の当事者間では譲渡は有効ですが、承認を得ない限り会社に対しては株主であることを主張できないと解されています。なので、いくら当事者間で譲渡が有効に成立したとしても、譲り受けた人は会社に承認を求める必要があります。

ただ、この場合には、原則として、譲受人単独では証人請求ができず、譲渡人である元株主と共同で証人請求を行う必要があります(会社法137条2項)。

例外として「利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合」(会社法施行規則24条、一例として承認請求をすべきことを命ずる判決が出た場合など)には、単独で承認請求をすることができます。

譲渡承認請求に対する会社の対応

このように、譲渡人あるいは譲受人から譲渡承認請求がなされた場合には、会社は株主総会あるいは取締役会で決議することになります。

会社が譲渡を承認した場合には、決定内容が請求者に通知されます。承認の期限は譲渡承認請求の日から2週間以内とされていて、この期間内に会社が何も通知をしなければ、会社は譲渡の承認の決定をしたものとみなされてしまいます(会社法145条)。

なので、承認請求をした場合には、承認通知が届くか、あるいは2週間以内に不承認の通知が届かなかった場合には、会社から株式譲渡を承認されたということになります。

会社が不承認とした場合

では、会社から不承認の通知が届いた場合には、あきらめるしかないのでしょうか。

株式を手放したいにも関わらず保有し続けなければならないというのは株主にとって酷ですし、会社法が原則とする「株式譲渡自由の原則」にも著しく反します。

なので、株主は、譲渡承認請求の際にあらかじめ「不承認の場合には会社が買い取ってくれ」と請求しておくことができます。この場合には、不承認の決定をした会社は、他の買取人を探すか、会社で買い取らなければなりません。

このようにすれば、承認請求をした人は、自分が望む者に株式を譲ることはできませんが、保有する株式を売却して換価することはできるのです。

以上の通り、譲渡制限規定が定められた会社の株式は、譲渡する際には会社に承認を求める必要があります。しかし、会社から不承認とされた場合にも、会社に買い取らせたり買取人を指定させるなどの方法で、売却することはできるのです。

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