製造物責任法とは何か

The following two tabs change content below.

弁護士 堀居 真大

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属

 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

最新記事 by 弁護士 堀居 真大 (全て見る)

取引先から「製造物責任について対策をしているか」と聞かれました。製造物責任という言葉は聞いたことがありますが、詳しくは知りません。具体的にはどういったものでしょうか。そして、対策はどのようにすればよいのでしょうか。

目次

製造物責任法とはどのような法律か

製造物責任とは、一般には製品の欠陥が原因で消費者に生じた損害に関する製造者の責任のことをいいます。平成6年に製造物責任法が制定(施行は平成7年)され、同法は製造者が損害賠償責任を追及されやすくする内容であることから、近時注目されています。製造物責任法はPL(Product Liability)法とも呼ばれます。

製造物責任法の最大の特徴は、同法は、製造者等が損害賠償責任を負う要件のうちから「製造者の過失」という要件を除外したということです。

民法の一般原則では、被害者が加害者に損害賠償を請求するには「加害者の故意過失」が要件とされており(民法709条)、この加害者の故意過失は被者が証明する必要があることになっています。

しかし、被害者が加害者の「故意過失」を証明することは容易ではありません。

例えば、ガスヒーターから急に火が出て利用者が火傷を負ったというケースを考えると、被害者がメーカーに損害賠償を請求するためには、製造物責任法の制定前は「メーカーに過失があったことを被害者が立証する」必要がありました。

しかし、一消費者である被害者に、メーカーなどの大企業の製造上の工程などにおける過失を証明するということは非常に難しく、そのため被害者が損害賠償請求を諦めざるを得ない、ということが多くありました。

このため、消費者保護という観点から、「製造物」については、製造物に「欠陥」があり、被害者の損害と欠陥との間に因果関係さえあれば「製造者の過失」の有無に関わらず製造者に損害賠償責任が認められることになりました(製造物責任法3条)。

つまり、製造物責任法は、製造物の欠陥によって生じた被害者の損害の賠償において、民法が不法行為の一般原則で要件と定める「加害者の過失」を要件から除外することで、製造物の欠陥を原因とする被害者の損害賠償請求をより追求しやすくした法律なのです。

製造物責任法の制定による影響

製造物責任法によって被害者が製造物責任を追及しやすくなったということは、裏返せば製造者が製造物責任を追及されやすくなった、ということでもあります。

「製造物責任において製造者の過失を要件としない」という考え方は、アメリカでは1960年頃から判例として確立されており、そのためアメリカでは消費者の製造者に対する損害賠償請求が非常に多く行われることとなりました。

そのため、製造物責任法が制定されると、日本もアメリカのように、製造物責任に関する損害賠償請求が多く行われ、訴訟社会になるのではないか、と懸念されました。

しかし実際には、製造者側の努力などによって、国内で製造物責任の賠償責任訴訟が急増することはありませんでした。

もっとも、製造物責任は、もし認められれば、被害者が多数となりやすいこと、損害額が高額になりやすいことなどから、賠償額の総額が非常に高額になり得るので、メーカーなどの製造者は常に製造物責任について厳格な対応対策を行い、取引会社にもその対策を求めるようになりました。

製造物責任法の対象

では、製造物責任法の対象となる「製造者」とはどのような業者をいうのでしょうか。

製造物責任法2条3項1号は、同法が対象とする「製造業者等」について「当該製造物を業として製造、加工、又は輸入した者」と定義しています。ここでいう「業として」というのは「商売として」「繰り返して」というような意味です。

つまり、製造物責任法はメーカーのように実際に商品等を製造している業者に限らず、少しでも加工したり、単に輸入しただけの業者も対象としているのです。

加えて、実際に製造、加工、輸入をしていなくても「製造物に製造業者として氏名等を表示をした者」「製造物に製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者」も対象となります(同条2項)。

さらに「実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者」も対象となります(同条3項)。つまり、製造、加工、輸入をしているかのような外観を作成している業者も、同法の対象となり得るのです。

このように、製造物責任法は、メーカー以外の業者も広く対象としていることには注意が必要です。

どのように対策すれば良いか~製造物責任保険

では、どのように対策するべきでしょうか。

製造物責任法に基づく損害賠償を請求されない最善の方法は「欠陥のある製造物を全く取り扱わない」ことです。

しかし、実際には1個の欠陥も出さないことは至難の業であり、その実現には多大なコストがかかります。そして、自分が欠陥を生じさせなくても、製造の過程において他者が欠陥を生じさせた場合には、自身も製造物責任を負う場合もあります。したがって、「欠陥のある製造物を全く取り扱わない」というのは現実的な対策方法ではありません。

最も有効な対策法は損害保険に加入することです。

製造物責任法が制定された後、同法の対象になる業者の多くは、巨額の損害賠償請求に対する予防としてPL保険に加入しました。PL保険の正式名称は「生産物賠償責任保険」ですが、製造物責任法のリスクをカバーするもので、今では広く普及しています。

また、PLリスクのある業界では、組合などが団体としてPL保険を募集している場合があります。団体として加入すれば格安の保険料でPL保険に加入することができます。団体募集がなくても、損害保険代理店に相談すれば、比較的安価でPL保険に加入することができます。

以上の通り、完全な防止が難しい現状、最も有効な予防策は「PL保険に加入すること」となります。

製造物責任に関する理解を深めることが重要

とはいえ、損害保険は金銭的なリスクをカバーするだけであり、製造物の欠陥により消費者被害が出てしまえば、その訴訟対応などで貴社に有形無形の損害が生じます。

したがって、保険に入るだけでなく、自身が製造者として損害賠償請求をされないような企業努力をすることも重要となります。

そして、製造物の欠陥が原因で損害賠償を請求された際には、対応を誤ると巨額な賠償請求に繋がりかねないので、初期段階で速やかに弁護士などに相談されることが大切です。

  • URLをコピーしました!
目次