フランチャイズ契約を締結し事業を開始したものの、赤字続きでやがて立ちゆかなくなるというケースは残念ながら少なくありません。
加盟店としては、フランチャイズからの脱退をしたくても、既に多額の資金を投入してしまっていることに加え、中途解約による解約金の請求を受ける恐れや競業禁止の問題もあって、にっちもさっちも行かないという状況に陥ることもあります。
「こんなはずではなかった」「事前に聞いていた話と全然違う」
こうした思いが湧いてくる局面を乗り越えるための一つのヒントになりうるのが、「フランチャイズ本部の情報提供義務違反」という切り口です。
情報提供義務とは
ここでいう情報提供義務とは、「フランチャイズ契約を締結するにあたって、フランチャイズ本部が加盟店になろうとする者に対して、正確な知識や情報を提供する義務」のことを指します。
そもそもフランチャイズ本部と加盟店との間には圧倒的な知識経験の差があるのが通例です。こうした格差があるからこそ、加盟店としては加盟金やロイヤリティなどの対価を払って、フランチャイズ本部からの指導や援助を得て事業を行うのです。こうしたフランチャイズ本部と加盟店との関係は、いわばフランチャイズ契約の本質とも言えるものです。
フランチャイズ契約を締結するにあたっても、加盟店はフランチャイズ本部から提供される情報を重要な判断材料として加盟するかどうかを判断することになります。
したがって、フランチャイズ本部は、フランチャイズ契約を締結するにあたって、加盟店になろうとする者に対して不測の損害を与えることがないように、正確な知識や情報を提供する法的義務を負うとされているのです。
フランチャイズ契約締結にあたっての情報開示については、中小小売商業振興法という法律が、小売・飲食のフランチャイズチェーンについて、一定の情報を締結前に書面で交付し説明することを義務づけている他、公正取引委員会が定めるフランチャイズガイドラインも、独占禁止法違反防止の観点から、一定の重要事項について書面を交付し説明することが望ましいとしていますが、それにとどまらず、一般にフランチャイズ本部としては加盟店とのフランチャイズ契約締結にあたって正確な知識や情報を提供する法的義務を負うことが多くの裁判例で認められています。
情報提供義務違反とその効果
損害賠償請求
では、どうしてこの「情報提供義務」が問題解決の糸口になりうるのでしょうか。
例えば、フランチャイズ契約を締結する前に「これくらい儲かる」と聞いていたのに、蓋を開けてみれば全然話が違う、よくよく調べてみると、示された収支予測の前提とされたデータはまったく実態とかけ離れた不合理なものだった、というケースを考えてみます。
この場合、フランチャイズ本部は、不正確な情報を提供し、フランチャイズに加入するかどうかの判断を誤らせたという意味で、情報提供義務違反を問われることになります。そして、この情報提供義務違反が原因で赤字続きで廃業する加盟店としては、フランチャイズ本部に対して、初期投資費用や、被った赤字分について損害賠償請求することが考えられます。
違約金の支払い拒絶
また、フランチャイズ契約を期間途中で解約する場合には、フランチャイズ本部に対して違約金を支払わなければならないといった規定が契約上定められている場合が少なくありません。
しかし加盟店が解約せざるをえなくなった原因がフランチャイズ本部の情報提供義務違反にあるというケースにまでこうした違約金の請求が認められるのはあまりに不当です。
そこで、こうした場合には公序良俗違反として、フランチャイズ本部からの違約金を拒める場合があるのです。
情報提供義務の具体的な内容
情報提供義務の詳しい内容について、さらに見ていきます。
収支予測/事業の適法性
フランチャイズ本部による情報提供義務違反が問題となる典型的な例は、上でも採り上げた「収支予測がでたらめだった」というケースですが、それ以外にも、事業自体が違法で、開業後にそのことが分かったために営業停止せざるを得なかったというようなケースもあります。
結果として違法だったということだけで当然にフランチャイズ本部の責任が問われるわけではありませんが、少なくとも、フランチャイズ本部としては、加盟店を巻き込んで事業を展開する以上、加盟しようとする者に対して、事業の適合性についての問題点を十分説明した上で、加盟するかどうかを判断させる義務があります。
積極的な調査開示義務まで負うか
情報提供義務違反が問題となるケースは、細かく言うと、
A フランチャイズ本部が加盟店に対して情報を提供したが、その内容が不正確であった場合
B フランチャイズ本部が、加盟店の判断にとって必要な情報をそもそも提供しなかった場合
という二つの場合に分けることができます。
Bの場合はさらに、
B-1 フランチャイズ本部が情報自体を取得していない場合
B-2 フランチャイズ本部が調査を行い一定の情報を得たが、これを加盟店に開示しなかった場合
に分けることができます。
Aの場合(フランチャイズ本部が加盟店に対して情報を提供したが、その内容が不正確であった場合)は、フランチャイズ本部が客観的に誤った情報を提供し、加盟店の判断を誤らせていることから義務違反が認められやすいといえます。
例えば、サンドウィッチ店のフランチャイズ契約において適切な情報の不提供による損害賠償請求が認められた裁判例(福岡高裁平成13年4月10日判決)では、
フランチャイズ本部が、フランチャイズ契約の勧誘、交渉の過程で当該立地条件における事業の収益性等について情報を提供する場合には、合理性のある情報を提供すべき信義則上の保護義務を負っている
として、「情報を提供する場合についての義務」という形で義務内容を設定した上で、その違反を認めています。
また、コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においてフランチャイザーの説明義務違反が認められた裁判例(千葉地方裁判所平成13年7月5日判決)でも
フランチャイズ契約を締結するに当たり、フランチャイズ本部は加盟店になろうとする者に対してできるだけ正確な知識や情報を提供する信義則上の義務、少なくとも不正確な知識や情報を与えること等により契約締結に関する判断を誤らせないよう注意する信義則上の義務を負担している
として、情報提供義務の内容を、手堅く、フランチャイズ本部が加盟店に対して情報を提供する場合の義務として設定した上で、その違反を認めています。
これに対して、Bの場面(フランチャイズ本部が、加盟店の判断にとって必要な情報をそもそも提供しなかった場合)のうちB-1(フランチャイズ本部が情報自体を取得していない場合)については、一般的にフランチャイズ本部に情報を取得して提供すべき義務まで負わせるのはなかなか難しく、問題となっている情報の内容や当事者の関係性、交渉経緯等によっては、このような義務が認められる余地もある、という限度にとどまるかと思います。
例えば、美容室のフランチャイズにおいてフランチャイザーの情報提供義務違反が否定された裁判例では、店舗候補地の立地条件及び収益予測を科学的方法により積極的に調査しその結果を開示すべき法的義務を負うかどうかについては、「勧誘交渉の経緯、営業種目の性質や科学的調査の難易度、その正確性等を総合して判断すべき」とした上で、当該事案ではそのような義務までは認められないと結論づけています。
一方、B-2(フランチャイズ本部が調査を行い一定の情報を得たが、これを加盟店に開示しなかった場合)については、加盟店の判断に影響を与えるような重要な情報であれば開示すべきでしょう。
例えば、コンビニフランチャイズにおいて、フランチャイザーによる情報の不開示について義務違反を認めた裁判例(名古屋高裁平成14年4月18日判決)は
信義則上、フランチャイズ本部は、加盟店となろうとする者に対して、予定店舗についての的確な情報を収集するとともに、収集して保有するに至った情報を、特に秘匿すべき事情のない限り、加盟店となろうとする者に開示すべき義務がある
として、このような情報の開示義務を認めています。
収支予測の困難性との関係
情報提供義務違反が問題となる典型例が「事前に示された収支予測が実態と全然違った」というケースですが、ここで注意しなければならないのが、収支予測は、「予測」である以上やはり100%の正確性をもって行うことは困難である、という点です。
例えば、ベーカリーカフェのフランチャイズにおいて収支予測義務違反を否定した裁判例(東京地裁平成14年1月25日判決)は、結果として、予測が異なっていたこと自体から義務違反となるのではなく、
予測の手法自体が明白に相当性を欠いた不合理なものであったり、これに用いられた基礎数値が客観的根拠を欠いている場合など、売上げ予測及び総事業費予測が全く合理性を欠き、フランチャイジー(加盟店)に契約締結に関する判断を誤らせるおそれが著しく大きいものである場合に限って,注意義務の違反となる
としています。
予測が実態とあまりに乖離している場合には、基礎となるデータが誤っていたり、予測の手法が相当性を欠いていることを一定程度推認させるともいえますが、いずれにしても、予測が実態と違っていたという結果だけではなく、予測の手法や根拠となった数字がどのように誤っていたかを具体的に掘り下げていく必要があります。
例えば、クリーニング店のフランチャイズにおいて本部の情報提供義務違反を認めた裁判例では、フランチャイズ本部が行った売上試算において、競合店の選択についての判断が誤っていたことが指摘されています。
また、コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においてフランチャイザーの説明義務違反が認められた裁判例では、売上、棚卸しロス、見切・処分についての数値が目標値として提示されたものに過ぎず、周囲の環境の変化に伴う売上減少傾向についても考慮されていないこと等が指摘されています。
一定の調査を行う合意がある場合
なお、フランチャイズチェーンによっては、事前にフランチャイズ本部が一定の調査を行うことを内容とする合意がなされている場合がありますが、その場合には、より一層、客観的かつ正確な情報を提供することが求められるといえます。
例えば、コンビニフランチャイズにおいて売上予測等の情報が不正確であったとして損害賠償請求が認められた例(平成14年3月28日大阪地裁判決)は、フランチャイズ本部が加盟しようとする者との間で、店舗立地調査を行うことを目的とする覚書を締結して覚書締結金50万円を受領しているケースでしたが、「そのような覚書締結や金員の受領がない場合に比べて、提供すべき情報の客観性、正確性についてはより一層高度なものが要求されるというべき」と指摘されています。
損害賠償請求における損害の内容
フランチャイズ本部に情報提供義務違反が認められる場合、加盟店は、情報提供義務と因果関係のある損害、つまり、情報提供義務違反があったことによって被った損害について賠償請求できることになります。
問題は、どのような支出や費目が「因果関係のある損害」となるのかですが、一般的には以下のようなものが損害として考えられます。
開業費用
加盟料、研修費用、機器の購入費用やリース料等、店舗の賃貸借関係費用(仲介手数料、保証金償却、現状回復費用)
営業損失
店舗営業期間中に生じた赤字に相当する金額。
ただし、請求できる期間について限定をする裁判例もあるので、注意が必要です(サンドウィッチ店のフランチャイズ契約において適切な情報の不提供による損害賠償請求が認められた裁判例)。
その他の「損害」について
この他に、フランチャイズ契約を締結しなかったならば他で得られたであろう収入を請求したケースもありますが、現実に契約を締結してこれによって被った損害の請求をしている以上、前提において矛盾するとして否定されています(乳酸菌飲料の販売網に関して契約締結時の情報提供義務違反が認められた裁判例)
また、慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)を請求するケースもいくつか見られますが、慰謝料は財産上の損害の賠償によってもなお慰謝されない精神的苦痛を被ったといえる場合にのみ請求が認められることから、一般的には困難といえます。(クリーニング店のフランチャイズにおいて本部の情報提供義務違反を認めた裁判例など)
過失相殺
フランチャイズ本部に対する損害賠償請求が認められる場合も、損害全額の賠償請求が可能かどうかは別途問題になります。
加盟店とフランチャイズ本部との間には、圧倒的な知識経験の差があるとはいえ、加盟店も事業者として独自に事業を営む存在です。そのため、フランチャイズ本部に情報提供義務違反があるとしても、加盟店の側にもフランチャイズ本部の情報提供を慎重に検討したり、独自に情報収集するなどができたのではないか、その意味で加盟店にも落ち度(過失)があるのではないかとして「過失相殺」が問題になるのです。そして、加盟店側にも落ち度があると評価される場合には、損害の一定割合については請求が認められないことになります。
過失相殺がこのような理屈で行われるものであることから、過失相殺がされるかどうか、過失相殺されるとしてもどの程度の割合かは当然ケースバイケースです。
過失相殺の判断にあたって考慮される要素としては、
加盟店の性質(事業経験の有無、程度、内容)
知識経験の不足を補う手段の有無
提供された情報について加盟店がとった対応
フランチャイズ本部の義務違反の内容、程度
などが挙げられます。
8割の過失相殺を認めた例
サンドウィッチ店のフランチャイズ契約において適切な情報の不提供による損害賠償請求が認められた裁判例
7割の過失相殺を認めた例
クリーニング店のフランチャイズにおいて本部の情報提供義務違反を認めた裁判例
5割の過失相殺を認めた例
事業の適法性に関するフランチャイザーの説明義務違反が認められた裁判例
過失相殺を認めなかった例、ないし2割の過失相殺を認めた例
乳酸菌飲料の販売網に関して契約締結時の情報提供義務違反が認められた裁判例
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