ベーカリーカフェのフランチャイズにおいて収支予測義務違反を否定した裁判例

フランチャイズ本部は、フランチャイズ契約締結にあたり客観的かつ的確な情報を提供すべき義務を負っています。そして加盟を検討する者にとっては、フランチャイズに加盟した後の収益予測は加盟の是非を判断する上でもっとも重要な情報ですから、フランチャイズ本部が誤った収益予測を提示して加盟に至ったような場合には、損害賠償責任等の問題が生じます。

もっとも、収益予測は、「予測」である以上、100%の正確性をもって行うことは困難です。

例えば、以前に紹介した美容室のフランチャイズにおいてフランチャイザーの情報提供義務違反が否定された裁判例でも、フランチャイズ本部が収益予測を科学的方法により積極的に調査してその結果を開示すべき義務を負わないとする理由の一つとして、「美容室の提供するサービスはこれに携わる人の能力等により左右される面のあることを否定できないので、科学的方法により正確な収益予測を立てるには相当困難が伴うこと」が挙げられています。

この裁判例では、収益予測を「積極的に」調査して開示すべき義務があるかが争われましたが、これと異なり、フランチャイズ契約締結過程で収益予測が実際に提示され、それが開店後の結果とは乖離していた場合にも、やはり「どの程度の正確性があれば、情報提供義務を果たしたといえるのか」が問題となってきます。

この点について触れた裁判例(東京地裁平成14年1月25日判決)をとりあげます。

目次

事案の概要

この事案は、フランチャイズ契約を締結してベーカリーカフェとパブレストランを併設した店舗を開業した原告が、その後、経営が行き詰まり約1年後に閉店に追い込まれたことについて、フランチャイズ本部やその役員らに対して損害賠償を求めた裁判です。

フランチャイズ本部に対する責任追及の根拠の一つとされたのが「収支予測義務違反」でした。

原告からは、フランチャイズ本部は「客観的な判断材料になる正確な売上げ予測と総事業費予測を提供する義務」があったのに、事前の綿密な調査を怠り、また、調査結果について不合理な評価をしたとして、義務違反の主張がされたのです。

収支予測義務違反の判断基準

この点について、裁判所は、まず、以下のように述べて、フランチャイズ本部が収支予測義務を負うことを認めています。

・フランチャイズ本部と加盟店との間では、その立場及び経験上、知識、情報量及び資金力において圧倒的な格差があることが多い。

・フランチャイズに加盟しようとする者にとって、専門的知識を有し、豊富な情報量と資金力を有するフランチャイズ本部の売上げ予測及び総事業費予測は、加盟するか否かを決定づける重要な要素となり得る。

・したがって、一般に、フランチャイズ本部及びその従業員は、加盟店の勧誘に当たり、客観的かつ的確な売上げ予測及び総事業費予測を提供すべき注意義務を負う。

もっとも、問題は、どのような場合に上記のような義務違反が認められるかです。

この点について、裁判所は、

・事業活動の成果は、その時々の経済情勢やその他の諸要因により容易に変化する性質のものであるから、これを正確かつ確実に予測することは極めて困難というべき

・予測の手法も確立した一定の方式が存するものとは認められない

という点を指摘しています。

そして、フランチャイズ本部が提供した売上げ予測及び総事業費予測が、実際の売上げ及び総事業費の実績と異なるものとなったとしても、このことから直ちに客観的かつ的確な売上げ予測及び総事業費予測を提供すべき注意義務に違反するものではなく

予測の手法自体が明白に相当性を欠いた不合理なものであったり、これに用いられた基礎数値が客観的根拠を欠いている場合など、売上げ予測及び総事業費予測が全く合理性を欠き、フランチャイジー(加盟店)に契約締結に関する判断を誤らせるおそれが著しく大きいものである場合に限って,前記注意義務の違反となる

としました。

収支予測義務違反の否定

本件では、フランチャイズ契約締結過程で最終的に示された売上げ予測が、カフェレストラン部分とパブレストラン部分をあわせて1日あたり139万円であったところ、実際には、初月で約59万円、2ヶ月目で約55万円という売上げ予測を大幅に下回る売上げしか得られませんでした。

しかし、裁判所は、フランチャイズ本部が、店舗の所在ビルの新規性、話題性、店舗の視認性、所在地域の就業人口、駅の乗降客数、隣の店舗の店前通行量、近隣の飲食店の来店者比率を確認した上で、店前通行量を隣の店舗よりも少なく、また来店者比率についても視認性の悪さを考慮して抑えて評価したことなどを指摘した上で、

売上げ予測は「客観的な根拠事実に基づき,本件店舗の有利な部分も不利な部分もともに評価して行われたと認められる」から、予測の手法が明白に相当性を欠いたものであるとはいえず、かつこれに用いた基礎数値も、客観的根拠を有するものであったから、合理的な手法による予測であったと認めるのが相当

として、収支予測義務違反を否定しました。

また、事業費(経費)予測についても、個々の事業費において若干の誤差があっても、事業費の合計は予測の範囲内に収まっているとして、総事業費予測についての説明義務違反を否定しました。

収支予測の根拠を確認することの重要性

本判決が示した収支予測義務違反の一般的な判断基準は、まあそんなものかなとも思いますが、実際の売上げが予測の半分以下であったことに照らすと、収支予測義務違反を否定した結論はやや厳しい印象も受けます。

ただ、本件では、フランチャイズ本部といっても、いくつかの会社が出資してフランチャイズチェーンシステムを組織することを目的として作られた会社で、本加盟店がフランチャイズチェーンシステムの第1号店であったという特殊性がありました。

その意味では、通常、フランチャイズ本部と加盟店との間にある「知識、情報量及び資金力における圧倒的な格差」が比較的働きづらく、予測の困難性の判断にも影響を及ぼした可能性があります。

いずれにしても、少なくとも「実際の売上げが予測と異なっている以上当然に予測義務違反が認められる」というものではない以上、加盟店としては、フランチャイズ本部から示された予測がどのような根拠・手法に基づいて算出されたものかを具体的に掘り下げて問題としていく必要がありますし、遡って加盟の際にも、フランチャイズ本部から示された予測を鵜呑みにせずに、こうした点を一つ一つ確認し説明を求めておくことが、将来的に身を守ることにもつながります。

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執筆者情報

2006年 弁護士登録(愛知県弁護士会)
名古屋第一法律事務所所属
NPO法人あいちあんきネット理事
2020年~ コープあいち有識者理事 

労働、相続、建築、倒産等をはじめとする一般民事、中小企業法務を幅広く取り扱うとともに、フランチャイズ分野の法的支援にも注力。中小企業事業者の支援にあたっては単なるトラブル解決にとどまらない「事業の発展に結びつく解決」を目指している。

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