サンドウィッチ店のフランチャイズ契約において適切な情報の不提供による損害賠償請求が認められた裁判例

フランチャイズ加盟店は、通常、フランチャイズ本部と比較べて当該事業について知識経験が圧倒的に乏しい立場にありますが、他方で、あくまでもフランチャイズ本部とは独立の企業体として、自らの判断とリスクにおいて経営を行うことが求められます。

そのため、フランチャイズ契約締結過程においてフランチャイズ本部から誤った情報提供がなされ、これによって損害を被った場合にも、こうした独立の企業体としての特質から、請求できる損害の範囲が限定されたり、大幅な過失相殺がなされることがあります。

一例として、サンドウィッチ店のフランチャイズ契約において適切な情報の不提供による損害賠償請求が認められた例(福岡高裁平成13年4月10日判決)をとりあげます。

目次

事案の概要

本件で 問題となったのはサンドウィッチ店のフランチャイズ契約です。

フランチャイジーとして加盟したのは、もともと電気器具の販売等を目的とする会社でした。

同社はフランチャイザーが開催したセミナーに出席し、さらに、個別に訪問を受けて勧誘を受けるなどした上で、フランチャイズ契約を締結しましたが、契約締結前には、リストアップした店舗候補地から、フランチャイズ本部が2物件に絞った上で、立地調査を行い、その報告をもとに店舗を決定していました。

しかし、開業後も毎月損失が続き、開業後約1年でフランチャイズ契約を解除するに至ったのです。

そこで、フランチャイズ店開業のための初期投資費用及び営業損失の損害を被ったとして、フランチャイズ本部に対して損害賠償請求訴訟を起こしました。

保護義務違反

裁判所は、まず損害賠償の前提となるフランチャイズ本部の義務について、

・フランチャイズシステムの本質は、加盟店がフランチャイズ本部に対して対価を支払って、フランチャイズ本部から当該事業の経営に関する知識や経験に基づく指導や援助を得て事業を行うところにあること

・よって、フランチャイズ本部は、当該当該事業の経営に関する十分な知識経験を有している者が予定されている一方で、加盟しようとする者は、これらを有していないことが予定されていること

・事業の収益性が立地条件に左右される店舗営業などのフランチャイズの場合には、当該立地条件における具体的な事業の収益性当についての情報がフランチャイズ契約を締結するかどうかを判断するための重要な資料となること

を指摘した上で、

フランチャイズ本部が、フランチャイズ契約の勧誘、交渉の過程で当該立地条件における事業の収益性等について情報を提供する場合には、合理性のある情報を提供すべき信義則上の保護義務を負っている

としました。

そして、本件でも、フランチャイズ本部は約40店舗の出店経験があるのに対して、加盟店は、食品販売の経験もなく、消費者に対する小売業の経験もなかったのであるから、フランチャイズ本部は合理性のある情報を提供すべき義務を負っていたとしました。

セミナーにおける説明

もっとも、このように信義則上の保護義務が認められるのは、両者の間に密接な関係が生じて、相互に相手に損害を与えるべきではないという要請が働くからです。

そのため、裁判所は、セミナー開催の段階においては、「セミナーの開催案内の方法やセミナーの内容に照らすと、まだ両者の関係は信義則によって規律される段階にはなかった」として、フランチャイズ本部の信義則上の保護義務は否定しています。

フランチャイザーが作成した報告書について

これに対して、セミナー開催後に、フランチャイズ本部が作成し提出した報告書については、裁判所は、「直接的にフランチャイズ契約締結のための勧誘、交渉を行っている段階で提供されたもの」で、「加盟店となろうとするものがリストアップした具体的な立地条件のもとにおける事業の収益性に関わるもの」であるから、そこに示された情報は合理性のあるものでなければならないとしています。

そして、報告書で示された「予測売上高」について

・売上高予測の基礎となる商圏人口の設定が、「他店舗での調査結果による商圏半径を地域性等を考慮することなくそのまま採用した上で、地図上で商圏範囲を割り出し、同範囲内の行政人口を算出するという机上の操作を行ったもの」に過ぎず、正確性や安全性(保守性)は低いものであったこと

・サンドウィッチのマーケットサイズ(年間一人あたりの消費支出額)を6200円と判断した点は、合理性を有しないものであったこと

・店舗候補地の状況について、「特に競合する店は存在しない」とした判断が不合理なものであること

・シェアとして26パーセントを採用した点について、これは予測シェアというよりも目標シェアというべきものであること

・開店後の売上高が、予測売上高の三分の一にも満たない結果となっていること

を指摘して、その判断は、「断定的な表現とは裏腹に、合理性を欠いた誤った推論」であったものと評価すべきとしました。

損害について

フランチャイズ本部に保護義務違反があるとなると、次に問題となるのが、これによって加盟店にどのような損害生じたといえるのかという点です。

例えば、開業後に毎月赤字が出ていたとしても、それがフランチャイズ本部の誤った情報提供とは全く別の原因で(業務怠慢など)生じていたのであれば、当然、その賠償をフランチャイズ本部に求めることはできないからです。

裁判所は

・加盟店がフランチャイズ本部の指導、援助を受け容れる形で営業改善の努力を行っていたこと

・フランチャイズ本部は、加盟店の求めに応じて半年以上に亘り積極的に指導援助を続けてきたが、本件店舗は損失を計上し続けたこと

を指摘して、

・本件店舗の出店のための初期投資費用(約2136万円)

のみならず

・本件店舖の営業損失

についてもフランチャイズ本部の義務違反行為との間に相当因果関係のある損害として認めました。

もっとも、「集客率アップの可能性の有無を見極めるのに必要な期間の経過後は、もはや、損失を覚悟のうえで営業を継続していたと見ざるをえない」として、開店から8ヶ月間に発生した損失(金額としては、約1320万円)の限度でのみ損害として認め、それ以降については損害として認めませんでした。

ここから教訓として読み取れるのは、加盟店は、売上予測に及ばず改善も見込めないと合理的に判断できる期間経過後も営業を続けた場合には、損害賠償の局面でも、損害の限定という形で不利益を被る可能性があるという点です。(大変難しい判断にはなりますが)フランチャイズ本部から事前に提供された情報が誤っていると分かった時点で素早く撤退することが求められているといえます。

過失相殺について

フランチャイズ本部に義務違反があり、かつ、これによる損害が加盟店に生じていたとしても、その全額の賠償請求ができるのかという点が次に問題となってきます。

フランチャイズ本部からは、加盟店にも過失があるから、過失相殺により賠償額を減額すべきとの主張がされました。

この点について、裁判所は、結論として8割の過失相殺を認める(つまり、損害額全体のうち2割についてのみ請求を認める)という形で、比較的フランチャイジーに対して厳しい判断をしています。

その理由について、裁判所は

加盟店といえども、自ら事業を営んで収益を上げることを目的とし、フランチャイズ本部とは独立の企業体であり、加盟店自身の判断とリスクにおいて経営を行うものであり、フランチャイズ契約書における定めに照らしても、当該事業を営むかどうかについて、本来、自己の責任において判断することが求められている

という一般論を述べた上で、加盟店が

・以前から電線等の販売業を営み、当時約20億円の年商をあげていた企業であり、代表者の経歴に照らしても、およそ事業や経営というものに関する一般的な知識や経験を有していたこと

・報告書の説明を受けた際に、経営コンサルタントの立会を得、フランチャイズ契約締結の相談をするなど、フランチャイズ方式によるサンドウィッチ販売の事業についての知識や経験を補う手段を有していたこと

・報告書の裏付け資料を求めることもなく、また、説明内容を実際に検証することが比較的容易であったのに行わなかったこと

を指摘して、これに「フランチャイズ本部の義務違反の内容、程度」も勘案して8割の過失相殺を認めました。

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執筆者情報

2006年 弁護士登録(愛知県弁護士会)
名古屋第一法律事務所所属
NPO法人あいちあんきネット理事
2020年~ コープあいち有識者理事 

労働、相続、建築、倒産等をはじめとする一般民事、中小企業法務を幅広く取り扱うとともに、フランチャイズ分野の法的支援にも注力。中小企業事業者の支援にあたっては単なるトラブル解決にとどまらない「事業の発展に結びつく解決」を目指している。

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