フランチャイザーの情報提供義務違反が問題となる場面は、厳密にいうと
①フランチャイズ本部が、加盟店に対して情報を提供したが、その内容が不正確なものであった(適確なものではなかった)場合
②フランチャイズ本部が、加盟店の判断にとって必要な情報をそもそも提供しなかった場合
という二つの場合に分けることができます。
例えば、以前に取り上げたサンドウィッチ店のフランチャイズ契約において適切な情報の不提供による損害賠償請求が認められた例や、クリーニング店のフランチャイズにおいて本部の情報提供義務違反を認めた裁判例は、①の場面での問題です。
この場合は、フランチャイズ本部が客観的に誤った情報を提供していることから義務違反が認められやすいといえます。
これに対して、②の場面については、フランチャイズ本部が積極的な調査開示義務まで追うのかといった点が問題となり、①と比べても一段高いハードルが生じます。
例えば、美容室のフランチャイズにおいてフランチャイザーの情報提供義務違反が否定された裁判例では、店舗候補地の立地条件及び収益予測を科学的方法により積極的に調査しその結果を開示すべき法的義務を負うかどうかについては、「勧誘交渉の経緯、営業種目の性質や科学的調査の難易度、その正確性等を総合して判断すべき」とした上で、当該事案ではそのような義務までは認められないと結論づけています。
では、フランチャイズ本部が調査に基づいて一定の売り上げ予測を試算していながら、それを加盟店に開示していなかったという場合はどうなるでしょうか。この場合は②の一類型といえますが、こうした点が問題となった裁判例として、コンビニエンスストアにおいて加盟店に対する情報提供義務違反の有無が問題となった裁判例(名古屋高裁平成14年4月18日判決)をとりあげます。
事案の概要
本件で問題となったのは、コンビニエンスストアのフランチャイズです。
ある夫婦がコンビニエンスストアのフランチャイズに加盟して店舗を開店しましたが、開店直後から売上が伸びず、経営に行き詰まったため、半年ほどで閉店に追い込まれました。そこで、フランチャイズ本部に対して、フランチャイズ契約を締結したことによって生じた損害の賠償を請求して訴えを起こしたのです。
1審判決(名古屋地裁平成13年5月18日判決)は、フランチャイズ本部の情報提供義務違反を認め、請求の一部を認容しましたが、その控訴審で出されたのが本判決です。
フランチャイズ本部による日商予測と説明
本件において大きく問題となったのは日商予測に関する説明についてです。
フランチャイズ本部は、本件で問題となったような郊外型の店舗を新規に出店するにあたっては、立地調査を行い、開店当初時の日商売上げを予測していました。
そして、本件店舗についても開店当初時の平均日商を32万5000円と算出予測していたのです。
しかしながら、フランチャイズ契約締結の過程において、フランチャイズ本部は、同県内の店舗の平均日商が50万円であると説明しただけで、本件店舗についての日商予測値については告げませんでした。
情報提供義務違反
一審判決は、フランチャイズ本部の本件店舗の日商予測について、「かなり楽観的ないし強気の見通しを立てていたことは否定できず」「店舗経営に関する蓄積したノウハウを豊富に有する被告会社としては杜撰であった」とした上で、このようにして予測した数値を開示することすらしていない点について、フランチャイズ本部の情報提供義務違反を認めました。
そして、控訴審判決も、同じく情報提供義務違反を認めましたが、その理由について、次のように説明しています。
・フランチャイズ契約は、自らの商標やノウハウ等を基にフランチャイズシステムを構築するフランチャイズ本部が、その指導と援助の下に資金を投下して加盟店となろうとする者との間に継続的取引関係の合意をする契約である。
・加盟店は、この契約により、フランチャイズ本部の商標やノウハウを利用して営業し、その指導や援助を受けられるメリットがあり、フランチャイズ本部は、加盟店の資金や人的資源を活用して、自己の事業を拡大し、収益を得ることを目的としている
・フランチャイズ契約は、多くの場合、フランチャイズ本部が予め作成している統一的契約書により契約するものであり、加盟店となろうとする者は、通常、小規模の事業者かこれを志す者であり、資金力も小さく,同システムによる営業についての知識や情報がフランチャイズ本部に比べて極めて少ない。
・これらを考慮すれば、信義則上、フランチャイズ本部は、加盟店となろうとする者に対して、予定店舗についての的確な情報を収集するとともに、収集して保有するに至った情報を、特に秘匿すべき事情のない限り、加盟店となろうとする者に開示すべき義務がある
一定の算出予測をしながら、それを開示しなかったというケースではありますが、フランチャイズ本部と加盟店となろうとするものとの間の圧倒的な情報量の差異等を根拠に、「的確な情報収集とその開示義務」まで認めている点は大いに着目されます。
損害額
1審判決は、フランチャイズ契約締結時に加盟店が差し入れた成約預託金のうち、開業準備手数料と研修費用については、情報提供義務違反と因果関係のある損害として認めましたが、契約締結後に支払ったロイヤルティについては、情報提供義務違反と因果関係のある損害としては認めませんでした。
これに対して控訴審では、支払ったロイヤルティ全体については、同じく情報提供義務違反と因果関係のある損害としては認めませんでしたが、そのうち店舗営業期間中に生じた赤字に相当する金額については、「情報提供義務違反がなければ生じなかった負担」として、因果関係のある損害として認めました。
過失相殺
過失相殺については、1審、控訴審ともに、4割の過失相殺を認めました。(つまり、加盟店が被った損害のうち6割だけ請求を認めました)。
その理由としては、次のような点が指摘されています。
・加盟店も、独立した事業者として、自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図する以上、最終的には自己の判断と責任においてフランチャイズ・システムに加入するか否かを決断すべきこと
・本件では、フランチャイズ本部から、同一県内の既存店舗の平均日商の説明を受けただけで、本件店舗も同程度であろうと漫然と誤信してしまい、それ以上説明を求めなかったし、自ら調査もしなかったこと
・加盟店は、それまでも経済取引についての経験を相当程度有していたこと
・フランチャイズ契約締結により、多額の開業資金を投下して新たな事業を始めようとしたものであること
詐欺、錯誤
なお、本件では、加盟店側は詐欺による損害賠償や、錯誤によるフランチャイズ契約自体の無効の主張もされていましたが、これらは一審、控訴審ともに退けられています。
「開業してみたところ聞いていた話と全然違って儲からない!」という局面では、「騙された!」という思いから「詐欺だ!」「錯誤だ!」といった主張が自然に思い浮かぶところではあります。
しかし、法律的に構成しようと思うと、例えば詐欺については、「フランチャイズ本部に騙す認識があったとまでいえるのか」といった点や、錯誤については、「重過失がないといえるか」(錯誤に陥った側に重過失があると錯誤無効の主張は認められません)といった点が問題となるなど、相当ハードルが高い主張になります。
したがって、詐欺や錯誤の主張をするよりは、やはり「的確な情報を提供したか」という情報提供義務違反の問題として主張する方が加盟店にとっては闘いやすいといえます。
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