フランチャイズに加盟しようとする者は、加盟するかどうかを判断するにあたって、当然のことながら「儲かるのかどうか」を考えることになると思いますが、その際、フランチャイズ本部から提供される情報が重要な意味を持ちます。
加盟にあたってフランチャイズ本部から提供された情報が不十分であったり、杜撰であったりした場合には、「情報提供義務違反」として、法的な責任の問題になりえますが(例えば、フランチャイザーの情報提供義務違反が認められた例【教導塾京都事件】)、問題はどこまでの情報を提供する必要があるのかという点です。
この点を考える上で参考になる裁判例の一つとして、フランチャイズ本部の情報提供義務違反が認められなかった例(東京地判平成5年11月30日)をとりあげます。
事案の概要
本件で問題となったのは美容室のフランチャイズです。
加盟店の代表者は、従前、洋菓子の製造・販売業を営んでおり、美容室を経営した経験はありませんでしたが、フランチャイズ本部から勧誘を受け、新たに会社を設立して美容室を始めました。
しかし、開店後、店舗は赤字の状態が続き、開店から約1年半後には閉店となってしまいました。
そこで、フランチャイズ本部に対して、「契約締結に際して正確な情報を提供することを怠った過失がある」として、開店費用や営業損失などの損害賠償等を求めたのがこの訴訟です。(その他に、独占禁止法に違反する違法な勧誘があった旨の主張や、従業員に対する指導教育などフランチャイズ本部としてなすべき債務の履行を怠ったことを理由とする損害賠償も主張されていますが、ここでは省略します)
裁判所の判断
積極的な調査開示義務
裁判所は、
フランチャイズ・システムの本部は、加盟店を募集するに当たり、加盟店になろうとする者がフランチャイズ契約を締結するかどうかを判断するための正確な情報を提供することが望ましいことはいうまでもない
とする一方で、フランチャイズ本部が、加盟店になろうとする者を勧誘する際に、店舗候補地の立地条件及び収益予測を科学的方法により積極的に調査しその結果を開示すべき法的義務を負うかどうかについては
勧誘交渉の経緯、営業種目の性質や科学的調査の難易度、その正確性等を総合して判断すべきである
との一般論を述べました。
ここで重要なのは、積極的にという点です。
つまり、フランチャイズ本部が(一定の情報を提供したがそれが誤っていたという場面ではなく)、収益予測等を積極的に調査しその結果を開示すべき法的義務を負うかどうかということが、ここでは問題となっているのです。
義務違反の否定
そして、裁判所は、本件では
・加盟店代表者は、美容室経営の勧誘を受けた際、20坪程度の建物が必要と言われたことから、当該店舗建物がその広さから見てちょうど良いと考えたこと
・当初の勧誘からフランチャイズ契約締結までの間に、店舗の立地条件や収益予測を科学的方法により調査、予測することやその結果が話題になったことはなかったこと
・フランチャイズ本部は、店舗の立地条件については、チェック項目を設けて加盟店側にチェックさせる方式をとっており、また、収益予測については、美容業界の平均的損益等を基礎に平均的規模の加盟店のため予測した数値を美容室経営に精通した者が候補地を見分して受ける勘や直感、候補店舗の規模等によって修正する方法を採っていたこと
・美容室の提供するサービスはこれに携わる人の能力等により左右される面のあることを否定できないので、科学的方法により正確な収益予測を立てるには相当困難が伴うこと
を指摘して、フランチャイズ本部において、店舗の立地条件や収益予測を科学的方法により積極的に調査してその結果を開示すべき義務を負担していたとまでは認めることはできず、したがって、かかる義務違反はないと結論づけました。
因果関係の否定
加えて、裁判所は、店舗の立地条件及び収益予測を科学的方法により調査、予測していれば、当該店舗が美容室を展開するのに不向きで収益もさして挙げることが出来ないことが判明したと認めるべき証拠もないとして、仮に調査開示義務違反があるとしても、加盟店が主張する損害(開店費用や営業損失等の損害)との間に相当因果関係もない、と指摘しています。
加盟店とフランチャイズ本部との間には圧倒的な情報の格差等がありますが、加盟店は、あくまでも独立した事業主体として自らの判断と責任において事業を行うという側面からは、フランチャイズ本部に求められる情報提供義務にも一定の限度があります。
フランチャイズに加盟を検討する者としては、こうしたことも念頭において、フランチャイズ本部に対し、加盟後の収益予測等について納得のいくまで説明や資料の開示を求めた上で、慎重な検討を行うことが必要といえます。
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