乳酸菌飲料の販売網に関して契約締結時の情報提供義務違反が認められた裁判例

契約交渉に入った者は,誠実に交渉を行い,一定の場合には重要な情報を相手に提供すべき信義則上の義務を負い,これに違反した場合には,相手方が被った損害を賠償すべき義務を負います。

「フランチャイズ契約を締結したのに、事前の話と違って全く儲からないどころか大赤字になった」というトラブルにおいて問題となるのが、この情報提供義務違反です。

ここでは、義務違反が認められるかどうか、認められるとしてもどのような損害が認められるのか、さらには、フランチャイジー側にも軽率に契約を締結したという意味で過失相殺がされないかといった点が問題となります。参考となる裁判例として、平成7年7月20日浦和地方裁判所川越支部判決(フローラ事件)をとりあげます。

事案の概要

本件で問題となったのは、乳酸菌飲料のフランチャイズ方式による販売網です。

乳酸菌飲料の卸売業者である原告と、被告ら(2名)との間では、「原告は、被告らに対して、ヨーグルト、クロレラ、果実酢等の商品を供給し、被告らは「フローラ鶴ヶ島販社」の名称を使用して、原告から仕入れた商品を販売し、その仕入れ代金を原告に支払う」との契約(販社契約)が、それぞれ結ばれていましたが、原告が、被告らに対して、商品代金等の未払いがあるとして提訴したのが、この訴訟です。

これに対して、被告らは、支払い義務を争うとともに、原告には、販社契約を結ぶにあたり、被告らに対し、「契約締結に関する判断を誤らせないように注意すべき信義則上の保護義務」の違反があったとして、逆に、原告に対して、営業期間中の赤字分や慰謝料などの損害賠償を請求したのです。

契約締結課程における説明と実情

収益見込み

原告は、新聞広告や折込広告で販社を一般公募しており、被告らは新聞折込で原告による販社の募集を知り、説明会等に参加した上で、販社契約を締結していました。

原告は、説明会等においては、例えば、次のように説明していました。

本社の指導に基づいて営業活動をすれば、人口一〇万人の営業地域の販社において、開業六箇月後に、販売要員一〇人を使用して、月商二二三四万円、粗利益七八一万円、純利益四四〇万円となる。

販売要員一人当たり一日五世帯の顧客化と顧客一世帯当たり月商三〇〇〇円が損益分岐点となり、販社は、三箇月目で損益分岐点をクリアーし、経営は軌道に乗る。

特殊な経験、技能を要しない。脱サラ、主婦も対象としている。

しかし、実際には、原告は過去の別会社での経験のみに基づいて、想定数値を挙げただけで、割り当てた営業地域において実情に則した市場調査、経営分析等を実施したわけではありませんでした。

流通センターの不設置

また、原告は、「本社の下で、商品の第一次卸問屋及び物流センターとしての性格を持つ「流通センター」が設けられ、販社の注文に応じて商品を販社に販売する他、販社の営業活動を援助する」との説明も行っていました。

しかし、実際には流通センターは設置されなかったため、被告らは各自で商品を搬送し、保管しなければならず、予想外の出費や労力を要することになりました。

結果、開業三箇月後あたりから各販社の顧客が次々に購買契約を解約して減少し、原告が各種パンフレットに掲載した顧客化達成数、予想売上高、予想収益額には遠く及ばない結果となりました。そのため、被告らは販社業務を開始してから約1年で営業をやめることとなりました。

保護義務違反

以上のような事実関係のもとで、裁判所は、まず一般論として、次のように述べました。

原告は、一般大衆を本件システムの組織に組み入れて、これを運営しようとしたのであったから、訪問販売についての経験のなかった被告らが販社経営をしても、不測の損害を被ることがないように、事前に的確な情報を提供して、十分にその内容を説明した上、被告らに各販社契約の締結を勧誘すべき義務があったというべきであり、原告には被告らに対する保護義務があったと認めるのが相当である。

原告と被告との間で締結されたのは、事業を行おうとするものとの間での取引(事業者取引)ではありますが、実情としては、被告らには当該事業についての知識経験もなく、両者の間には圧倒的な知識経験の差があることから、この点を重視して、原告に「事前に的確な情報を提供して、十分にその内容を説明した上、販社契約の締結を勧誘すべき義務」を認めたのです。

その上で、裁判所は、

事前には流通センターの機能について大きく宣伝されたにも関わらず、実際には流通センターは設置されなかったこと

被告らに示された収益見込みが、想定数値に過ぎず、実情に即した市場調査や経営分析等を実施されたわけではなかったこと

原告が「本社の指導に基づいて営業活動を展開すれば良い。」と強調していたにもかかわらず、被告らに派遣された販売要員には、十分な研修を積んでいない者が少なくなかったこと

などを指摘した上で、

原告は、みずからの利益を図るために誇大な宣伝をして、経済事情を良く知らなかった被告らに各販社契約を締結させ、被告らが如何に営業活動に努力をしても、早晩損害を被ることになることを知りながら、これを防止する策を講じようとせず、放置していた

として、原告は、不法行為による損害賠償責任があると結論づけました。

賠償額

原告に賠償責任があるといっても、では、いくらの賠償責任があるのか、つまり、被告らにはどのような損害が認められるのかが次の大きな問題です。

裁判所は、販社業務との間に相当因果関係のある支出(商品仕入れ代金、仕入れ関係費、広告宣伝費、給与、地代家賃等々)から、営業期間における売上高を差し引いた金額を、被告らが被った損害として認めました(2名の被告のうち、1名について約550万円、もう1名について約680万円)。

他方で、被告らが主張した損害のうち、逸失利益(販社業務に従事しなかったならば得られた収入)については、「現実に反社業務に従事してこれによる損害賠償を請求している以上、逸失利益の賠償を請求するのは前提において矛盾する」としてこれを否定しました。

また、慰謝料についても、「財産上の賠償で賄われており、それ以外に、精神的な苦痛に対する賠償を求めるのは不当」などとして、否定しました。
 

過失相殺

最後に問題となったのは、過失相殺です。

原告は、

被告らは、各契約書を読めば、契約内容を十分に理解することができた

クーリングオフ条項によって、契約日から14日以内に無条件で各契約を解除することができた

などとして、被告らにも販社契約を結ぶにあたって重大な過失があったから過失相殺がなされるべきと主張しました。

しかし、これに対して裁判所は、

被告らは、原告の本件システムに関する説明を真に受けて、原告の指導に従いながら販社営業を実行すれば、原告が説明するような収益を上げることができるものと信じて、各販社契約を結んだのであるが、たとえ被告らのそのような判断が軽率なものであったとしても、原告は、みずからその原因を作り出したのであるから、その点を捕らえて、被告らの過ちを非難するのは相当でない。

被告らは、いずれも契約を結んだだけでは本件システムの実態を知ることができなかったし、各販社経営に着手するまでに相当の日時を要したのであったから、被告らがクーリングオフの権利を行使しなかったことを責めるのは相当でない。

として、これによる過失相殺は認めませんでした。

ただし、1名の被告については、販社経営を妻に任せきりにし、妻は十分な資金がなかったために必要な販売要員の雇用を差し控えた結果、他の被告と比較しても顧客数や売上高が著しく少なかった点を指摘し、「販社契約を結ぶに当たって、十分な準備をしたとはいえず、開業後も適切な策を講じたとはいえないのであって、そのために営業成績の低下を招くに至ったと認めることができるから、落度があったと認めるのが相当」として、2割の過失相殺を認めました。

まとめ

本件では、一般公募により契約者を募った上、収益見込みや流通センター構想を具体的に示していたにも関わらず、その客観的な裏付けを欠いていたり、流通センターが設置されなかったという点から、保護義務違反が認められました。認められる損害の内容や過失相殺のあり方の点からも参考になる裁判例です。

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