フランチャイズ脱退と競業避止義務・守秘義務
フランチャイズに加盟している人は「フランチャイズを脱退した後は、それまでに培った経験や得た知識を活かせるので、同じ事業をしたい」と考える方が多いと思います。
しかし、ほとんどのフランチャイズ契約書では「フランチャイズ契約終了後に同じ業種の営業を行うことを禁じる条項」(「競業避止義務」といいます)や「フランチャイズ業務において提供されたノウハウや情報などを他者に漏洩しないことを約束する条項」(「守秘義務」といいます)が存在します。これらの条項に違反した場合には損害賠償を請求されることもあります。
では、フランチャイズ加盟者は、フランチャイズ加盟時に培った経験や得た知識を脱退後の自分の事業に活かすことは全くできないのでしょうか。
競業避止義務条項の有効性
フランチャイズ本部(フランチャイザー)としては、フランチャイズ脱退後に同じ業務をされるのは、競合相手が増えるだけで自身に不利益なので、できることなら脱退した加盟者には同じ業務をして欲しくないと考えています。
しかし、地域や年数を問わず同じ業務ができないというのは、脱退した加盟者にとってはあまりにも大きな制約であり、憲法22条が定める職業選択の自由を侵害することになりかねません。
こうした問題は、過去の裁判などでも多数争われ、裁判所は競業避止義務条項自体は有効としつつも「その制限の程度が過度に重い場合には営業の自由を不当に制限するものとして公序良俗に反して無効になる場合がある」としています。あまりに重すぎる競業避止義務の規定は無効になる場合があるのです。
この場合の「過度に重い」かどうかの基準は、当該業種の特性や諸事情を踏まえた上で、「禁止期間が長すぎないか」「地域が限定されているかどうか」等の観点から判断されます。
このように、フランチャイズ契約書の競業避止義務条項が、例えば禁止期間の制限がなかったり、地域も無限定あるいは広域すぎたりした場合には、制限の程度が過度に重く加盟者の営業の自由を不当に制限するものとして無効となるかもしれません。一方で、年数や地域が「過度に重い」とまでは言えない場合には、条項は有効であり、脱退した加盟者は義務を守らなければなりません。
守秘義務条項の有効性
フランチャイズ本部から提供される情報やノウハウのうち、特に価値が高いものについては、加盟中のみならず脱退後も、第三者への交付や使用などを禁ずる規定を守秘義務規定などといいます。
本部としては、業務に関するレシピやノウハウはフランチャイズの肝であり、他者に拡散されるとフランチャイズ自体の価値が失われてしまいかねない死活問題なので、こうした情報(営業秘密などとも呼ばれます)の漏洩拡散を禁ずる守秘義務規定はほとんどの契約書で見られます。
前項の競業禁止とは異なり、営業秘密の守秘義務は、特段の期間の制限が無くても有効と解されています。かつて本部から提供された営業秘密を新たな事業に使用できないとしても、特に営業の自由を侵害するとまではいえないからです。
一方で、どこまでの情報や知識、ノウハウが「営業の秘密」に当たるかは難しい問題です。契約書に明記されたものは明らかですが、多くの契約書では「その他の営業秘密」などという抽象的な表現が用いられており、そういた場合には「どこまでが営業秘密なのか」が難しい問題となります。
裁判例では、クレープのレシピ(卵やミックス粉の配合等)が営業秘密に当たるかが争われた事案がありますが、同裁判では「特に独創的なものとまではいえない」として、営業秘密には当たらないとしたものがあります。
かつては独自性のあるノウハウでもその後広く知られて常識となったような場合にも、もはや当該ノウハウは「営業秘密」とは言えないので、使用しても問題ないでしょう。しかし、どこまで許されるかは業種や情報の内容等に応じてケースバイケースと言わざるを得ませんので、悩ましい場合には専門家に相談されることをお勧めします。
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弁護士 堀居 真大
平成6年4月 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
平成23年12月 愛知県弁護士会登録/名古屋第一法律事務所所属
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