自分の都合でフランチャイズ契約を解約することは認められるか

■Q■

とあるフランチャイズ契約を締結して、契約に基づきFC本部に加盟金500万円を支払いました。しかし、いよいよ開業するとなったときに、私が病気になってしまい、結局フランチャイズを開始することができなくなってしまいました。

そこで、FC本部に事情を説明して、加盟金の返還を求めたのですが、FC本部からは、契約書に「どんな事情があっても加盟金は返還しません」との条文があることを理由に、全く返還してくれませんでした。

こちらの理由で開業できなくなった場合には、加盟金は取り戻せないのでしょうか。

目次

加盟金の不返還特約について

一般に、フランチャイズ契約を締結する際に、多くの契約では、加盟店が本部に「加盟金」「加入金」などの名目で、一定の金額を支払うことが定められています。その金額は、業種や業態によっては数百万円と高額になることも珍しくありません。

そして、ほとんどの場合、この加盟金は「どんなことがあっても返還できない」と契約書に定められています(不返還特約などと呼ばれます)。

契約書に「返還できない」と定められており、かつフランチャイズ契約を解約する理由が加盟店側の事情である場合には、契約内容上、返還は基本的に難しいです。

FC事業開始前の加盟金返還請求

しかし、今回のご質問のように、FC事業を開始する直前であればどうでしょうか。

加盟店からすれば、まだFC事業を開始していないのだから、加盟金も返してもらえるのではないかと考えるかもしれません。

しかし、加盟店と本部との間で締結されるFC契約は、ほとんどの場合「FC事業開始前」に締結されます。店舗の工事やノウハウの提供、業務指導や什器備品購入など、FC開業準備に関する本部の様々な支援行為もFC契約に基づいて行われるからです。

従って、FC事業の開業前であっても契約締結後なので、両当事者は契約内容に拘束されます。従って、不返還特約も有効ということになります。

しかし、何も事業を開始していないのに、ただ不返還特約があるというだけの理由で、高額な加盟金が返還されないというのは理不尽であるとも考えられます。

加盟金の法的性質

では、この加盟金というのはどのようなものなのでしょうか。

ある飲食店のフランチャイズで、開業前に事業開始ができなくなったことを理由として、加盟店が本部に「加盟金」として支払った800万円の返還を求め裁判を提起した事例では、裁判所は加盟金について「営業許諾料」や「商号・商標の使用許諾料」、「開業準備費用」などの性質を有すると判示しました。つまり、加盟金は営業許諾や開業準備の対価であると考えたのです。

そして、同フランチャイズ契約には加盟金の不返還特約も定められていましたが、裁判所は、加盟金が有する上記法的性質や、加盟金が800万円と高額であることから考えると、不返還特約が「対価性を著しく欠く場合にまで、事由の一切を問わずおよそ返還を求めることができないというのは,暴利行為であって公序良俗に反し,無効と解すべき」と判示しました(神戸地裁平成15年7月24日)。

不返還特約が無効となることもある

そして、上記裁判の事例では、営業許諾料や商号・商標の使用許諾料もさほど高額になるとも考えられず、開業準備費用も特に支出されていないことから、800万円という加盟金は「著しく対価性を欠き、高額に過ぎる」ので「その返還を一切認めないという本件加盟金不返還特約は,暴利行為であって公序良俗に違反し無効というべきである」として、不返還特約が無効であると判示したのです。

このように、事例によっては、不返還特約が無効になるという場合もあるのです。

事例によって個別に考慮されること

ただ、ここで注意が必要なのは、上記判例は、加盟金の全額返還を命じているわけではないということです。「返還を一切認めないという不返還特約は無効だよ」という内容であり、合理的理由がある一部金額を返還しないということまで無効だと言っているわけではありません。

実際に裁判例でも、800万円の加盟金のうち、商号・商標の使用許諾料及び営業許諾料として200万円までは対価として認められ得る(実際には営業していないので、これも対価性がないような気もしますが)として、200万円を返還しないことは認め、600万円を返還するよう判示しています。

そして、上記裁判例も、加盟金のほかにどのような金額が支払われているか、照合や商標にどのような価値があるか、広告宣伝を行ったか、ノウハウ提供はどの程度なされたか、など諸事情を考慮した上で判断されたものであり、その結論は事例によって個別に異なり得るということにはご注意ください。

以上の通り、フランチャイズ契約に加盟金の不返還特約が定められている場合でも、事例によっては不返還特約の全部あるいは一部が無効となる場合があります。もっとも、その見通しの高さは個別事例によって異なりますので、まずは弁護士へ相談されることをお勧めいたします。

執筆者情報

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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