学習塾のフランチャイズに加入したときのことです。
学習塾の運営などこれまで経験がなく、特に生徒が確保できるか不安だったのですが、FC本部の説明会の説明では、最初はFC本部が生徒を一定数集めて確保してくれるとのことでした。FC契約書にもそのような文言がありました。
そのことがあってFC加入を決断したのですが、集客が全く思うように行きません。FC本部に集客をお願いしても「本部は生徒募集のサポートをするだけで、本部が生徒を集めることはない」とのことでした。確かに、よく契約書を読むと、本部は加盟店が生徒を集めることを「支援する」と書いてあります。
しかし、これは詐欺ではないでしょうか。仮に詐欺ではないとしても、非常に重要な部分で思い違いがあったのだから、契約を取り消して、加入時に支払った高額な加盟金を返してもらうことはできないのでしょうか。
口頭説明とフランチャイズ契約書
お尋ねのような、フランチャイズの募集の時の本部の説明と実際の契約書の内容が違うということは、残念ですが珍しいことではありません。FC本部も加盟店を増やそうとして、説明会などでは甘い言葉を並べることはよくあることです。
こうした曖昧な、あるいは不正確な説明については、契約書の内容であればともかく、口頭の説明について「詐欺だ」と主張することは簡単ではありません。
口頭の説明は「言った言わない」の問題になりやすく、またニュアンスや解釈などで齟齬が生じやすいからです。結局、契約書にサインしている以上、契約書の内容について合意したとみなされてしまうことが多いです。
なので、説明会や担当者の口頭説明だけでFCの加盟を決断することは危険です。FC加盟時には、どんなに大変でも、契約書をしっかり読むことが必要です。もちろん、契約書の内容が曖昧だったり、契約時に提示されていなかったりした場合には、その内容について「聞いていない」と争うことは十分に可能です。
フランチャイズ契約と錯誤
では、詐欺ではないとして「契約内容を勘違いしていた」ことを理由に、いったん成立した契約を取消して、支払った加盟金を取り戻すことはできるでしょうか。
「勘違いしたのはこちらの責任だから無理ではないか」と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
契約内容についての思い違いや勘違いは、民法では「錯誤」といいます。そして、民法95条は、その錯誤が一定の要件を満たす場合には、それが「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである」場合には、意思表示を取り消すことができると定めています。
ここで注意すべきは、錯誤が「重要なことについての錯誤」でなければならないことです。例えば、フランチャイズの名称がカタカナと思ったらひらがなだったとか、本店所在地が東京ではなく名古屋だったとかでは、それはフランチャイズ事業という目的の点で「重要」とは言い難く、それを理由とする錯誤取消は困難でしょう。
一方で、ロイヤリティの金額や事業内容など、フランチャイズの根幹に関する錯誤は、FC事業にとって重要なものなので錯誤取消の対象となることもあるでしょう。
今回は「開設当初の生徒確保」とのことですが、FC事業の根幹に関するものではありませんが、未経験な加盟店にとってはとても重要なことですし、それを決め手としてFC加入を決めたのであれば「重要な錯誤」として、契約を取り消すことが認められる余地もあると考えられます。
ある裁判例の考え方
裁判例でも、FC本部から「立地条件が良く出店すれば必ず利益が上がる」と説明され、それであればと加入したところ、実際は全く利益が上がらなかったという事案で、FC本部の説明義務違反は認められなかったものの、加盟店の「錯誤」を理由に契約の取り消しが認められた事例があります。
この事例では、本部が加盟店に、収益に関して、立地に関する調査をまとめた「立地診断報告書」というものが提供されたところ、その内容自体が詐欺や説明義務違反とまではいえないものの、内容に不正確な部分が多く、読んだ人が「必ず収益が上がる」と錯誤するのも無理がないと認定されました。
そして、その他の様々な事情を考慮した上で、確実に利益が上がると思いこんだことは「FC契約の重要な点に関する錯誤」と認められ、FC契約自体が無効となったのです。
上記の裁判例は、様々な事情を総合考慮した上での判断であり、「勘違いを理由に必ずFC契約を取り消すことができる」というものではありませんが、事情次第では錯誤により契約を取り消すことも有り得ます(錯誤の効果は、令和2年3月までは「無効」でしたが、民法改正により令和2年4月以降は「取消」に変わりました)。
あきらめる前に、一度、弁護士などの専門家に相談してみるのも良いかもしれません。
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