高額すぎる違約金の効力

ピザ宅配のフランチャイズ事業をしています。

最近はピザの宅配業界も競争が厳しくて、毎月のロイヤリティの支払いも滞りがちになりました。また単価を下げるために、FC本部が定めている仕入先以外から原材料を仕入れたりしていたのですが、それが本部にばれてしまいました。

その件で、本部に呼び出されたところ、ペナルティとして500万円支払えというのです。私はびっくりして「何を根拠に」と尋ねたところ、契約書に書いてあるというのです。

契約書を見たところ、確かに「フランチャイズの規約に反したら違約金500万円」と書いてあります。確かに今回の件はこちらに非がありますが、原材料を他から仕入れただけで500万円というのは厳しすぎませんでしょうか。私はこれを支払わなければならないのでしょうか。

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損害賠償額の予定

本件のように、規約違反や違反行為があった場合の損害額をあらかじめ決めておくことを「損害額の予定」といいます。民法第四百二十条には「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる」とあります。

そうなると、契約書で損害額を合意によって予定、つまり決めていたのであれば、その金額には拘束力が生じるように考えられます。

高額すぎる違約金

しかし、契約書に書いてさえあれば、金額がどれだけ高額でも有効な合意となってしまうのでしょうか。

この点について判例は、予定賠償額が実際の損害に比べ著しく過大な場合には、公序良俗による制限を加え、その全部または一部を無効とするができるとしています(大判昭19・3・14)。

ここで問題となるのは「予定賠償額が実際の損害に比べ著しく過大か」です。

原材料を指定先以外から仕入れただけでは、たいした損害は生じないと思われるかもしれません。

しかし、例えばそのフランチャイズが、高品質を看板としていたり、特定の原材料を使用したりしていることをうたい文句にしている場合には、本部が指定しない原材料を使用することで、ブランドイメージが著しく毀損されるかもしれません。

また、安い食材が原因で食中毒などが生じるリスクも増えるでしょう。

こうしたことを考えると「仕入先を変えるくらい」のことでも、それによる損害が大きく評価され、予定賠償額が「実際の損害に比べ著しく過大」とまではいえない、と判断されることがあるかもしれません。

違反行為による損害の大きさについては慎重に判断する必要があります。

「一部無効」となる場合もある

では、もし仮に「予定賠償額が実際の損害に比べ著しく過大」とされた場合には、違約金規定は「公序良俗違反により無効」(民法90条)となり、ペナルティは0円となるのでしょうか。

必ずしもそうとは限りません。先ほど引用した判例も「全部または一部」を無効とするができる、としています。つまり、一部無効という場合もあるのです。

裁判例でも、ある飲食店が規約違反をしたことにより、FC本部が「その営業上の信用やチェーン店間の同一性、統一性を害される」として、一定の損害が認められるとしながらも、予定賠償額があまりにも高額だった(ロイヤリティ5年分)ことから、裁判所は「適正な賠償予定額を超える部分については公序良俗に反するものとして無効」として、その半分の金額が相当であり、それ以上は無効、としました。

なぜ半分なのか、という点については、裁判例では、当該違反行為の内容、程度、本部への影響、その後のFC本部の契約内容改訂(その後の契約での予定賠償額は2年半に軽減されていました)など、個別事情に基づいて判断されています。

FC本部にとっての損害

加盟店にとっては、違反行為は「大した損害ではない」と思われるようなことでも、ブランドイメージに多額の投資をしているFC本部にとっては、他との足並みを乱したり勝手に業務形態を変えたりすることが「その営業上の信用やチェーン店間の同一性、統一性を害される」として、多額の損害を認定され、高額な予定賠償額も「公序良俗に反しない」と判断されることも有り得ます。

なので、軽い気持ちで規約違反をすることは避けるべきです。ただ、規約違反が原因で高額な違約金を請求された場合には、いくら契約書に記載されているとはいえ、場合によっては全部あるいは一部が無効となるかもしれませんので、弁護士などに相談するのが良いでしょう。

執筆者情報

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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