フランチャイズ契約締結の過程でフランチャイズ本部から示される売上予測等の情報は、一般的にいっても加盟店がフランチャイズ契約を締結するかどうかを判断する上で極めて重要な情報となりますが、とりわけフランチャイズ本部があらかじめ一定の市場調査を行い対価を受領するよう場合には、その情報の持つ重要性は増してきます。
フランチャイズ本部がこのような調査に基づき提供した情報が不正確で加盟店が判断を誤った場合には、損害賠償の問題が生じてきます。この点について触れた裁判例として、平成14年3月28日大阪地裁判決を見てみます。
事案の概要
本件は、コンビニフランチャイズの加盟店が、フランチャイズ契約締結に際してフランチャイズ本部が示した売上予測等が誤っていたとして、フランチャイズ本部に対して損害賠償請求を行った事案です。
フランチャイズ契約締結の交渉過程で、フランチャイズ本部は、売上げ予測として、日商約45万円、1年後には酒類販売を含めれば月商1650万円が見込めるとの説明を行っていました。
また、「開店一年後の予測売上高は1350万円、二年後は月商1500万円」などと記載された出店計画書や、一年後の予測売上高を月商1650万円とするフランチャイズ本部内の稟議書の写しも交付していました。
しかし、開店後、約5年3ヶ月の間、月商は最高でも1250万円に満たず、フランチャイズ本部に対する未収金が年々増加する状態が続いたことから、結局加盟店は廃業するに至ったのです。
加盟店からの損害賠償請求に対して、フランチャイズ本部は、逆に、加盟店に対して、支払代行金や中途解約金、解約金及び敷金償却分の支払いを求めました。
本件の一つの特徴は、フランチャイズ契約締結前に、フランチャイズ本部が加盟予定者のために店舗物件の立地調査、市場調査を行うことを目的とした店舗立地調査に関する覚書が締結されていた点にあります。
加盟予定者は、この覚書に基づいて覚書締結金50万円をフランチャイズ本部に対して支払っていました。
より高度な客観性、正確性が求められること
裁判所は、まず、「出店予定地に出店した場合の売上高や営業利益に関する情報は、フランチャイズへの加盟を検討している者にとって、フランチャイズ契約を締結するか否かの意思決定に重要な影響を与え得る」ことを指摘した上で、
フランチャイズ本部は「できる限り客観的かつ正確な情報を提供すべき義務を負っている」
としました。
さらに、特に、本件にように店舗立地調査を行うことを目的とする覚書を締結し、覚書締結金50万円を受領している場合は
提供すべき情報の客観性、正確性については、より一層高度なものが要求される
としています。
情報提供義務違反
その上で、裁判所は、フランチャイズ本部が行った情報提供が客観的かつ正確なものかについて検討しています。
フランチャイズ本部が行った市場調査では、競合店としてスーパーマーケットのみが挙げられていました。
しかし、この点について、裁判所は
設定された「商圏」の範囲外にあるコンビニエンスストア2店舗も、商圏内の町からの距離や移動手段(自動車、バイク、自転車)を考慮すれば十分競合店たり得るから、競合店選択の合理性、客観性に疑問が残る
と指摘しています。
また、フランチャイズ本部は、調査によって得られた各項目の総得点をもとにランク分けをし、その上で売上予測を決定する手法をとっていましたが、この店舗については、総得点がこれに該当する評価ランクの中では下限に近い点であったにも関わらず、最終的に決定された売上予測は、当該ランクの売上予測の中では高い売上である月商1400万円とされていました。
この点について、裁判所は、売上予測の決定には一定の裁量があることを認めながらも、
加盟予定者が多額の開業資金を国民金融公庫等から借り入れることやフランフランチャイズ本部が損益分岐点を月商1200万と予測していたこと等に照らすと、加盟予定者にとっては、売上予測が月商1200万円程度にとどまるか、月商1400万円さらには1650万円に達するかは、フランチャイズ契約締結の上で極めて重要な要素であって、フランチャイズ本部が示した売上予測は、正確性を欠いていた
としました。
そして、先に触れたように「提供すべき情報の客観性、正確性については、より一層高度なものが要求される」という点も踏まえて、フランチャイズ本部が行った予測売上高に関する情報提供について、信義則上の義務違反があったと結論づけました。
損害の内容
裁判所は、営業開始のための費用(加盟料、保証金、店舗賃貸借契約の敷金、酒類販売業免許譲渡代)、店舗内装工事代等について原告の損害として認めています。
他方で、原告が主張していた差引損金(粗利総額から経費総額を引いたマイナス分)については、オーナー人件費やロイヤリティーは原告が被った損害として認められない性質のものである以上、経費総額からオーナー人件費やロイヤリティーを差し引いて計算すべきであり、そうするとマイナスは生じていないとして、これを損害としては認めませんでした。
過失相殺
裁判所は、加盟者が約15年間にわたる寿司店経営の経験を有していたこと等を考慮して、3分の1の過失相殺を行い、生じた損害の3分の2の限度でのみ賠償を認めました。
フランチャイズ本部からの中途解約金等の請求について
フランチャイズ本部は、加盟店に対して、中途解約金、リース解約金及び敷金償却分を請求していましたが、裁判所は、フランチャイズ契約等の中途解約の原因は、加盟店の都合ではなく、店舗の廃業が原因であり、廃業の原因はフランチャイズ本部にあるから、これらの請求は認められないとしました。
このように、フランチャイズ本部の情報提供義務違反は、フランチャイズ本部に対する賠償請求の局面だけではなく、フランチャイズ本部からの解約金等の請求の可否という局面にも関わってくるのです。
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