中小小売商業振興法とフランチャイズ

フランチャイズ本部(フランチャイザー)と加盟店(フランチャイジー)の間では、加盟店の本部に対する立場が弱いことなどを原因として、さまざまなトラブルが起こります。

現在、日本の法律では「フランチャイズ」と名がつく法律はありませんが、フランチャイズについて規制する法律の一つとして、中小小売商業振興法があります。独占禁止法と並び、フランチャイズに関連する法律として、フランチャイザー(本部)にとっても、フランチャイジー(加盟店)にとっても、理解しておくべき重要な法律です。

ここでは、中小小売商業振興法について詳しく見ていきます。

目次

中小小売商業振興法とは

中小小売商業振興法は、中小小売商の近代化、高度化、合理化によって中小小売商業の振興を図り、多様化する国民(消費者)のニーズに応えることを狙いとして、1973年に制定された法律です。

中小小売商業振興法の第1条は、目的について次のように定めています。

第一条 この法律は、商店街の整備、店舗の集団化、共同店舗等の整備等の事業の実施を円滑にし、中小小売商業者の経営の近代化を促進すること等により、中小小売商業の振興を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

このように、中古小売商業振興法が取り扱う範囲は、商店街の整備(店舗、アーケード、街路灯の設置等)や店舗の集団化をはじめとして非常に多岐にわたっていますが、その中の一つに、フランチャイズ事業の適性化に関する規定があるのです。

対象となる「特定連鎖化事業」とは

まず、中小小売商業振興法は、「主として中小小売商業者に対し、定型的な約款による契約に基づき継続的に、商品を販売し、又は販売をあつせんし、かつ、経営に関する指導を行う事業」のことを「連鎖化事業」と呼んでいます(第4条5項)。

さらに、「連鎖化事業」のうち、「当該連鎖化事業に係る約款に、加盟者に特定の商標、商号その他の表示を使用させる旨及び加盟者から加盟に際し加盟金、保証金その他の金銭を徴収する旨の定めがあるもの」のことを「特定連鎖化事業」と呼んでいます(第11条1項)。

やや分かりづらい用語ですが、要するに、一般の小売・飲食のフランチャイズチェーンがこの特定連鎖化事業に該当します。(これに対して、サービス業のフランチャイズについては、この法律が前提としているのがあくまでも小売商業であることから、該当しません)

特定連鎖化事業を行う者に課せられた義務

特定連鎖化事業を行う者(つまり、フランチャイズ本部)は、当該特定連鎖化事業に加盟しようとする者とフランチャイズ契約を締結する際には、あらかじめ、法律によって定められた事項を記載した書面を交付した上で、記載事項について説明をすることが義務づけられています(11条1項)。

交付する書面への記載だけではなく、記載事項について説明が必要とされている点に注意が必要です。

もし、特定連鎖化事業を行なう者がこうした義務を果たしていないと認められる場合には、主務大臣(経済産業大臣及び連鎖化事業に係る主たる商品の流通を所管する大臣)から勧告が行われ、さらに従わない場合には、その旨の公表が行われます(中小小売商業振興法12条)。

また、特定連鎖化事業を行なう者が、書面の交付や説明義務を果たしてないことは、情報提供義務違反による損害賠償が問題となる場面において、フランチャイズ本部の情報提供義務違反を基礎づける事実として重要な意味を持ちます。

書面への記載及び説明が義務づけられている事項

書面への記載及び説明が義務づけられている事項は次のとおりです。

一 加盟に際し徴収する加盟金、保証金その他の金銭に関する事項

まずは、トラブルとなりやすい加盟に際して徴収される金銭についてです。具体的には、少なくとも次の事項を記載しなければいけません(中小小売商業振興法施行規則11条)。

イ 徴収する金銭の額又は算定方法
ロ 加盟金、保証金、備品代その他の徴収する金銭の性質
ハ 徴収の時期
ニ 徴収の方法
ホ 当該金銭の返還の有無及びその条件

とりわけ徴収される金銭がどのような性質のものか、当該金銭の返還の有無や条件について、加盟を検討する方は、よく確認し理解しておく必要があります。

二 加盟者に対する商品の販売条件に関する事項

具体的には、少なくとも次の事項を定めなければいけません(中小小売商業振興法施行規則11条)。

イ 加盟者に販売し、又は販売をあつせんする商品の種類
ロ 当該商品の代金の決済方法

 商品代金の決済方法については、複雑な計算等が定められている場合も少なくありません。加盟を検討する方は、しっかりと確認し、理解しておく必要があります。

三 経営の指導に関する事項事項

具体的には、少なくとも次の事項を定めなければいけません(中小小売商業振興法施行規則11条)。

イ 加盟に際しての研修又は講習会の開催の有無
ロ 加盟に際して研修又は講習会が行われるときは、その内容
ハ 加盟者に対する継続的な経営指導の方法及びその実施回数 

思ったような経営指導が受けられなかったというのも、トラブルの種になりやすい要素の一つです。相互に理解の齟齬のないように、しっかりチェックする必要があります。

四 使用させる商標、商号その他の表示に関する事項

具体的には、少なくとも次の事項を定めなければいけません(中小小売商業振興法施行規則11条)。

イ 当該使用させる商標、商号その他の表示
ロ 当該表示の使用について条件があるときは、その内容

フランチャイズ契約においては、統一した商標や商号を用いることは、商品等が一定の品質や性能を保って提供されていることを顧客に示す重要な意味を持ちます。

フランチャイズ本部にとっては、これをどの範囲で、またどのような条件で認めるのかは非常に重要です。加盟しようとする者も、条件等についての理解が不十分なためにトラブルにならないように、正確に理解する必要があります。

五 契約の期間並びに契約の更新及び解除に関する事項

具体的には、少なくとも次の事項を定めなければいけません(中小小売商業振興法施行規則11条)。

イ 契約の期間
ロ 契約更新の条件及び手続き
ハ 契約解除の要件及び手続き
ニ 契約解除によつて生じる損害賠償金の額又は算定方法その他の義務の内容

様々な理由によりフランチャイズ契約を終了させる段階でのトラブルも後を絶ちません。契約が終了となる場合の条件やそれによって生じる不利益についてもしっかり確認する必要があります。

六 前各号に掲げるもののほか、経済産業省令で定める事項

「経済産業省令で定める事項」とは、具体的には次のとおりです(中小小売商業振興法施行規則10条)。

一 当該特定連鎖化事業を行う者の氏名又は名称、住所及び常時使用する従業員の数並びに法人にあつては役員の役職名及び氏名

二 当該特定連鎖化事業を行う者の資本金の額又は出資の総額及び主要株主の氏名又は名称並びに他に事業を行つているときは、その種類

三 当該特定連鎖化事業を行う者が、その総株主又は総社員の議決権の過半に相当する議決権を自己又は他人の名義をもつて有している者の名称及び事業の種類

四 当該特定連鎖化事業を行う者の直近の三事業年度の貸借対照表及び損益計算書又はこれらに代わる書類

五 当該特定連鎖化事業を行う者の当該事業の開始時期

六 直近の三事業年度における加盟者の店舗の数の推移に関する事項

具体的には少なくとも、以下の事項が記載されている必要があります(中小小売商業振興法施行規則11条)。

イ 各事業年度の末日における加盟者の店舗の数
ロ 各事業年度内に新規に営業を開始した加盟者の店舗の数
ハ 各事業年度内に解除された契約に係る加盟者の店舗の数
ニ 各事業年度内に更新された契約に係る加盟者の店舗の数及び更新されなかつた契約に係る加盟者の店舗の数

 フランチャイズチェーンがどれだけ拡大しているのか、また継続率はどの程度なのかがこれによって分かりますので、重要な情報です。

七 加盟者の店舗のうち、周辺の地域の人口、交通量その他の立地条件が類似するものの直近の三事業年度の収支に関する事項

フランチャイズ本部に求められる役割の強化などの観点から、2021年4月1日の法改正(施行は2022年4月1日)により、追加された事項です。

店舗で業務を行うフランチャイズビジネスについては、近隣の人口や交通量などの市場データが極めて重要ですが、事業に新規参入する加盟店にはそうしたデータを分析、判断するノウハウがありません。一方で本部としては、加盟店が持続的に事業を継続できなかったとしてもさしたる損害はないので(むしろ、その間のロイヤリティ収入などの利益を得られます)、十分な分析をせず、あるいは分析してもその内容を十分に加盟店に説明しないケースが増えました。

そのため、本部の説明不足による加盟店の乱立、加盟店の事業終了による損害などが問題視され、上記の改正が加わることとなったのです。

「事前に想定していたよりも儲からない」という典型的なトラブルを防ぐための重要な情報です。具体的には、少なくとも以下の事項について記載する必要があります(中小小売商業振興法施行規則11条)。

イ 当該特定連鎖化事業を行う者が把握している加盟者の店舗に係る次に掲げる項目に区分して表示した各事業年度における金額
(1)売上高
(2)売上原価
(3)商号使用料、経営指導料その他の特定連鎖化事業を行う者が加盟者から定期的に徴収する金銭
(4)人件費
(5)販売費及び一般管理費((3)及び(4)に掲げるものを除く。)
(6)(1)から(5)までに掲げるもののほか、収益又は費用の算定の根拠となる事項
ロ 立地条件が類似すると判断した根拠

なお、公正取引委員会が定めたフランチャイズガイドラインは、この点の情報開示に関して、「予想売上げ等ではないことが加盟希望者に十分に理解されるように対応する必要がある」と注意喚起しています。

八 直近の五事業年度において、当該特定連鎖化事業を行う者が契約に関し、加盟者又は加盟者であつた者に対して提起した訴えの件数及び加盟者又は加盟者であつた者から提起された訴えの件数
  
フランチャイズ本部と加盟店との間でトラブルの有無を端的に示す情報です。

九 加盟者の店舗の営業時間並びに営業日及び定期又は不定期の休業日

コンビニのフランチャイズチェーンなどでは営業時間や営業日を巡って争いが生じることもあります。

十 当該特定連鎖化事業を行う者が、加盟者の店舗の周辺の地域において当該加盟者の店舗における小売業と同一又はそれに類似した小売業を営む店舗を自ら営業し又は当該加盟者以外の者に営業させる旨の規定の有無及びその内容

十一 契約の期間中又は契約の解除若しくは満了の後、他の特定連鎖化事業への加盟禁止、類似事業への就業制限その他加盟者が営業活動を禁止又は制限される規定の有無及びその内容
 
フランチャイズ契約終了後にもっとも問題となるのが、競業避止義務の問題です。フラン契約終了後の加盟店の事業展開に直接関わってくる、大変重要な問題ですので、きちんと情報提供がなされ、また、理解する必要があります。

十二 契約の期間中又は契約の解除若しくは満了の後、加盟者が当該特定連鎖化事業について知り得た情報の開示を禁止又は制限する規定の有無及びその内容

十三 加盟者から定期的に金銭を徴収するときは、当該金銭に関する事項

いわゆるロイヤリティの問題です。
具体的には、少なくとも以下の事項について記載が必要です(中小小売商業振興法施行規則11条)。

イ 徴収する金銭の額又は算定に用いる売上、費用等の根拠を明らかにした算定方法
ロ 商号使用料、経営指導料その他の徴収する金銭の性質
ハ 徴収の時期
ニ 徴収の方法

十四 加盟者から定期的に売上金の全部又は一部を送金させる場合にあつてはその時期及び方法

十五 加盟者に対する金銭の貸付け又は貸付けのあつせんを行う場合にあつては、当該貸付け又は貸付けのあつせんに係る利率又は算定方法その他の条件

十六 加盟者との一定期間の取引より生ずる債権債務の相殺によつて発生する残額の全部又は一部に対して利息を附する場合にあつては、当該利息に係る利率又は算定方法その他の条件

十七 加盟者の店舗の構造又は内外装について加盟者に特別の義務を課すときは、その内容

十八 特定連鎖化事業を行う者又は加盟者が契約に違反した場合に生じる金銭の額又は算定方法その他の義務の内容

終わりに

中小小売商業振興法の内容について詳しく見てきましたが、近年の改正で新たに法定の記載事項が追加された事からも分かるように、フランチャイズトラブル防止の為に大変重要性を増している規制です。

ランチャイズ契約締結時に交付する書面に記載すべき事項は細かく定まっており、フランチャイズ本部としては、抜け漏れのないようにきちんと記載する必要があります。

他方で、フランチャイズに加盟しようとする方にとっても、わざわざこのような書面の交付や説明が義務づけがされている趣旨を十分理解した上で、ひとつひとつしっかりと理解し、確認する必要があります。

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執筆者情報

1994年 三井海上火災保険株式会社入社(現 三井住友海上火災保険株式会社)
2011年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属 

交通事故を中心とした一般民事を広く取り扱う。弁護士になる前は損害保険会社で勤務しており、中小企業や事業者の目線を大切にしたいという気持ちから、商取引全般、特に中小企業や個人事業者に関する法的トラブルに積極的に取り組んでいる。

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