フランチャイズ契約とクーリングオフ

フランチャイズ契約を締結した後に、様々な事情から「解約(脱退)したい!」と考えるようになるケースは残念ながら少なくありません。

もっとも、多くのフランチャイズ契約では、中途解約の場合に高額な違約金を払わなければならない等により、通常、解約はなかなか容易ではありません。そのため、解約(脱退)を希望する加盟者にとっては、どのように解約すれば良いのかが大きな問題となります。

一方、「想定していたものと異なっていた」というトラブルは消費者においてもよく生じますが、消費者については、よく知られているようにクーリング・オフ制度による解約が認められ、保護が図られています。

では、フランチャイズ契約についても、解約の方法の一つとして、クーリングオフ制度は利用出来ないでしょうか。

実は、フランチャイズ契約についても、特定の条件を満たす場合には、クーリングオフが可能となることがあります。

ここでは、フランチャイズ契約についてクーリング・オフが認められた裁判例(大津地方裁判所令和2年5月26日判決)のご紹介と共に、フランチャイズ契約とクーリング・オフ制度について考えてみたいと思います。

目次

クーリング・オフ制度とは

前提として、クーリング・オフの制度とはどういったものでしょうか。

クーリング・オフ制度は、いったん契約の申し込みや契約の締結をした場合でも、契約を再考できるようにし、一定の期間であれば無条件で契約の申し込みを撤回したり、契約の解除をしたりできる制度です(https://www.kokusen.go.jp/soudan_now/data/coolingoff.html)。

この制度が適用されるのは、特商法に規定されている、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引、訪問購入の6つの場合となります。

クーリング・オフの手続を行うには、一定期間内において、書面または電磁的記録で通知を行う必要があり、その期間は、次のように、契約類型毎に異なります。

  • 訪問販売        8日間
  • 電話勧誘販売      8日間
  • 連鎖販売取引     20日間
  • 特定継続的役務提供   8日間
  • 業務提供誘引販売取引 20日間
  • 訪問購入        8日間

*特商法が定めた内容が記載された書面の交付を受けた日を1日目と数えます。

上記6つの類型のうち、フランチャイズ契約について該当性が問題となるのは「業務提供誘引販売取引」です。

業務提供誘因販売取引とは

「業務提供誘引販売取引」は、簡単にいいますと、購入した物や提供されたサービスを利用した業務を行うことで収益が得られるということをもって相手方を誘引し、その相手方と特定負担を伴う取引です。

たとえば、このチラシを配布すれば○○円儲かりますのでこのチラシを購入してください、というように、○○円儲かるという点でチラシの購入を促し、チラシ購入の契約を締結した場合、「業務提供誘引販売取引」となります。

この「業務提供誘引販売取引」といえるためには、

  1. 物品の販売又は役務の提供(そのあっせんを含む。)の事業であること
  2. 業務提供利益が得られると相手方を誘引すること
  3. その相手方と特定負担を伴う取引をすること

の3点に該当することに加え、契約の相手方が、業務提供誘引販売業に関して提供され、又はあっせんされる業務を事業所その他これに類似する施設によらないで行う個人である必要があります。

フランチャイズ契約についてクーリングオフを認めた裁判例(大津地方裁判所令和2年5月26日判決)

「業務提供誘引販売取引」の該当性

この裁判例では、ハウスクリーニング事業のフランチャイズ契約が「業務提供誘引販売取引」に該当するかが争われました。

裁判所は、フランチャイズ契約の内容から、

  1. 本部がハウスクリーニング事業に必要な「機材・消耗品等」を販売し、また、開業前研修・開業支援等の役務の提供を有償で行う事業であること
  2. その販売物又は提供された役務を利用して本部が提供・あっせんするハウスクリーニング業務に従事することにより得られる利益を収受し得ることをもって加盟者を誘引していること
  3. 加盟者が初期費用として研修費等合計219万8000円を支払うなどの金銭的負担を伴う取引であること

から、当該フランチャイズ契約が「業務提供誘引販売取引」に該当すると判断しました。

また、裁判所は、フランチャイズ契約において加盟者が本部から提供・あっせんされた「業務」を自宅で行うこととしているため、「事業所その他これに類似する施設によらないで行う個人」であるとしました。

クーリング・オフの可否

「業務提供誘引販売取引」のクーリング・オフができる期間は、上記のとおり特商法が定める事項が記載された書面を受領した日から20日となります(特商法58条1項)。

裁判例の事案では、本部から加盟者に交付された書面にクーリング・オフに関する事項が記載されていなかったことから書面の交付がないと判断され、フランチャイズ契約が締結されてから3ヶ月以上が経過していましたが、加盟者によるクーリング・オフが認められました。

最後に

ご紹介した裁判例からも分かるように、『加盟者は事業者だからクーリング・オフは認められない』といった単純な話ではありません。

もちろんフランチャイズ契約の内容にもよりますし、「特定の条件の下では」ということではあるのですが、フランチャイズ契約についても、クーリングオフが認められる場合があり得ることを是非頭に置いて頂ければと思います。

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執筆者情報

2016年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属
2017年 愛知中小企業家同友会会員
2021年 NPO法人あいちあんきネット理事
2022年 愛知県アーチェリー協会理事
2023年 名古屋外国語大学非常勤講師(企業と社会)
 
労働、相続等の一般民事に加え、スポーツ法務、中小企業法務を取り扱う。経営者と伴走し、法的トラブルの解決や予防法務を通じて、会社や事業の成長・発展に尽力する。

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