
弁護士 小嶋 啓司
名古屋第一法律事務所所属

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フランチャイズ契約と競業避止
契約終了後も適用が続く競業避止規定は、フランチャイザーの財産である経営ノウハウを保護するために、フランチャイズ契約において盛り込まれることが多い規定です。
もっとも、契約終了後まで適用されてしまう競業避止規定は、フランチャイズ契約が終了した後であっても行うことができる仕事の範囲が限定されてしまうことから、フランチャイジーの職業選択の自由ないし営業の自由への不当な制限となり得るものといえます。そのため、多くの裁判において競業避止義務に関する規定の有効性が争われ、その中には競業避止規定が無効であるとの判断をした裁判例もあります。
その一例として、労働者派遣事業のフランチャイズ契約において、契約終了後の競業避止義務が公序良俗違反と認定された例(東京地裁平成21年3月9日判決)を取り上げます。
事案の概要
本件は、労働者派遣事業のフランチャイズ契約を締結したフランチャイジーAが、2期6年間継続した後に脱退しました。そして、Aは脱退と同時に関連会社Y1に吸収合併され、Y1がAの行っていた労働者派遣事業を継続していました。
そこで、フランチャイザーXが、Y1及び連帯保証人Y2に対して、フランチャイズ契約上の競業避止義務違反等を理由として、損害賠償請求訴訟を起こしました。
なお、本件で問題となった競業避止義務の規定は、次のようなものでした。
(兼業の原則禁止及び競業避止・同業参加の禁止)
甲は、本件契約期間中、以下のような事業や行為を行ったり参加したりすることはできず、また、本件契約の終了または解除後の2年間も同様とする。
⑴ 本件契約に基づかず乙の事業と同種又は類似の事業を営むこと。
(以下、省略)
競業避止義務違反
まず、裁判所は、Y1がAを吸収合併したことによりAの権利義務を承継しているとして、Y1がフランチャイズ契約上の競業避止義務を負っていると判断しました。
その上で、裁判所は、Aが雇用していた技術者をそのまま雇用してAと同じ顧客に派遣したことからY1がAと同一の事業を営んだとして、Y1が競業避止義務に違反していると判断しました。
競業避止規定の効力の判断基準
問題は、競業避止規定にそもそも効力が認められるのか、です。
この点について、裁判所は、
フランチャイザーの保有する一定の地域内において築き上げられた商圏(顧客)、商標等に表象される当該フランチャイズの統一的なイメージ、経営ノウハウはいずれも保護に値するところ、本件競業避止規定は商圏保護と経営ノウハウの保護を目的とする規定であるといえること 旧フランチャイジーは独立の事業者であるところ、競業避止規定によって、職業選択の自由及び営業の自由が直接的に制限されるだけでなく、所有権等(店舗ないし事務所及びこれに付随する什器備品等)の物権的権利の利用が制限され、さらに、投下資本の回収上の不利益を被ることがあることを指摘した上で、フランチャイズ契約における競業避止規定については、
①競業避止規定による制限の範囲(禁止の対象となる期間、地域・場所、営業の種類)が制限目的との関係で合理的といえるか
②競業避止規定の実行性を担保するための手段の有無・態様(違約金・損害賠償の予定、フランチャイザーの先買権など)
③競業に至った背景(契約の終了の原因に対する帰責の有無)
等を総合的に考慮し、競業禁止により保護されるフランチャイザーの利益が、競業禁止によって被る旧フランチャイジーの不利益との対比において、社会通念上是認しがたい場合には、民法90条により無効と解すべきである
としました。
本件における競業避止規定の効力
そして、本件では、
Aが労働者派遣事業を営んでいた地区でXの商圏が成立していたとはいえないこと XがAに提供した営業ノウハウは、遅くとも当初契約から6年が経過した契約終了時点では秘密性及び有用性を欠き、保護に値する程度がごく僅かであったこと 他方、本件競業避止規定によりAには廃業以外の選択肢がなく、しかも、契約終了当時のXの態度に照らし、その時点で、廃業(Xへの営業の承継)に伴う対価を得られる見込みがなかったこと 契約終了に至った原因について、フランチャイジーの全国展開計画の頓挫、フランチャイジーにとって有益なソフト開発の放棄など、X側の事情が多分に寄与していることを根拠に、競業禁止により保護されるフランチャイザーの利益が、競業禁止によって被る旧フランチャイジーの不利益との対比において、社会通念上是認しがたい程度に達しているというべきであるとして、本件競業避止規定が公序良俗に違反して無効であると判断しました。
冒頭で述べたように、フランチャイズ契約における競業避止の問題は、経営ノウハウ等を保護するフランチャイザーの利益と、フランチャイジーの職業選択の自由ないし営業の自由とが衝突する大変難しい問題ですが、本判決は、フランチャイザーの商圏や経営ノウハウの範囲、内容、契約終了に至った原因などを詳細に検討した上で無効の結論を導き出しており、競業避止規定のあり方を考える上で参考になる裁判例です。
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