競業避止義務によってどの範囲の行為が許されなくなるのかが争われた事例

フランチャイズ契約においては多くの場合、契約終了後の競業避止義務を定めた規定が盛り込まれます。

このような競業避止義務規定は、加盟店の営業の自由、職業選択の自由を制約するため、その有効性がよく争われますが、有効性の問題とは別に、競業避止義務規定によって具体的にどのような行為が規制されているのか、その規制の範囲が問題となる場合もあります。

競業避止義務規定が拡大して解釈されて、加盟店の契約終了後の行為について「あれもダメ」「これもダメ」と規制されることになると、加盟店の被るダメージは甚大です。したがって、競業避止義務によって規制される行為の範囲を適確に定めることはとても重要となります。

今回は、フランチャイズ本部が、競合避止義務規定には「第三者に類似の営業をさせる」趣旨も含まれていると主張して、営業の差し止めや損害賠償を求めたケースについてとりあげます(東京地方裁判所平成24年3月7日判決)。

目次

事案の概要

本件で問題となったのは、複合カフェのフランチャイズチェーンです。

加盟店は、フランチャイズ本部との間でフランチャイズ契約を締結して複合カフェの店舗経営を開始し、その後も店舗数を増やして、最終的には合計3店舗の複合カフェを経営していました。

しかし、当該加盟店の加盟から約8年後、フランチャイズ本部が資金繰りに窮するようになり、民事再生の申し立てをするに至りました。。他方で、加盟店も資金繰りに窮し、フランチャイズ本部からフランチャイズ契約に定める販売促進や広告宣伝活動等をほとんど実施してもらえない状態が続きました。

そのため、加盟店は、複合カフェ事業を終了させることを考えるようになり、フランチャイズ本部に対して、複合カフェに係わる事業の譲渡先を紹介するよう依頼しました。そして、フランチャイズ本部から紹介された譲渡先1社と交渉を行いましたが、譲渡の合意が成立しなかったため、フランチャイズ契約を解除して3店舗全てを閉店しました。

その後、加盟店は、別のフランチャイズ・システムにより複合カフェを運営する株式会社Aとの間で各店舗の什器等の設備の売買契約を締結しました。その際、本件フランチャイズ契約に関する名称及びマークが表示された設備については、Aが名称等を削除することが約束されました。

さらに、加盟店は、店舗の賃貸借契約を解除する際に、賃貸人に対してAのフランチャイズ・システムの加盟店Bを紹介し、加盟店が預託していた敷金をBに引き継ぐ旨の合意をしました。

これに対して、フランチャイズ本部は、これら加盟店の行為が「第三者に類似の営業をさせる」ことに該当し、競業避止義務規定に違反する等として、営業の差止めと約定違約金の支払いを求めて、訴訟を起こしたのです。

競業禁止規定と「第三者に営業させること」

本件で問題となった競業避止義務規定は、次のような規定でした(以下、本件規定といいます)。

加盟店は、本件フランチャイズ契約の期間中及び終了後2年間又は3年間、直接間接を問わず本部と競業関係にあるフランチャイズ・チェーンと類似の営業活動に従事し、又は本部と同業種の他社の業務に参加し関与してはならない。

そして、本件規定に違反した場合には、違約金を支払う旨の違約金条項もありました。

見て頂くと分かるように、本件規定には、「第三者に類似の営業をさせる」ことは明示されていませんでした。しかし、フランチャイズ本部は、「第三者に類似の営業をさせることを禁止する趣旨が含まれている」と主張したのです。

これに対して、裁判所は、このようなフランチャイズ本部の主張を認めませんでした。

その理由としては、

・本件規定とは別に、第三者へ権利義務を譲渡することを禁止する旨が規定されており、同規定の違反に違約金条項がないこと

・そうすると、本件規定が第三者をして営業をさせることをも禁止し、違反した場合には高額の違約金の支払い義務を負わせる趣旨を含むものと解するのは困難であること

が指摘されています。

また、裁判所は、「仮に」本件規定が第三者をして営業をさせることも禁止する趣旨等が含まれていたとしても、

・加盟店は名称及びマークを削除するなどの約定で什器等を売却したに過ぎないこと

・顧客名簿やフランチャイズシステムに係るマニュアルその他の経営ノウハウ等を提供したとも認められないこと

から、本件規定の違反は認められないとしました。

信義則上の競業避止義務違反の有無

さらに、裁判所は、「競業避止条項に違反したとはいえない場合であっても、その競業行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱するときは、不法行為あるいは信義則上の競業避止義務違反となると解する余地はある」として、本件規定違反の有無とは別に、信義則上の競業避止義務違反の有無についても検討を加えています。

しかし

・什器等の設備を売却したにすぎないこと

・フランチャイズ本部が本件フランチャイズ契約に基づいて販売促進等をほとんど実施していなかったこと

を指摘して、結論として、信義則上の競業避止義務違反についても否定しました。

おわりに

このように、本件は、競業避止義務規定の拡大した解釈を認めず、競業避止義務規定違反がないと判断し、また、本部及び加盟店双方の行為を総合考慮して信義則上の競業避止義務違反もないと判断した事例です。

競業避止義務規定といっても、フランチャイズ契約書ごとに様々な規定の仕方があります。したがって、競業避止義務が問題となる場面では、まずは、契約書においてどのように規定され、どのような行為が規制の対象となっているのかを丁寧に読み解く必要があります。

また判決の後半で触れられているように、たとえ競業禁止規定に違反しないとしても、場合によっては信義則上の競業避止義務違反が問題となることもあり得ますので、この点にも注意が必要です。

さらに、競業避止義務違反が認められる場合でも、違約金の効力が別途問題になることもあります。

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執筆者情報

2016年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属
2017年 愛知中小企業家同友会会員
2021年 NPO法人あいちあんきネット理事
2022年 愛知県アーチェリー協会理事
2023年 名古屋外国語大学非常勤講師(企業と社会)
 
労働、相続等の一般民事に加え、スポーツ法務、中小企業法務を取り扱う。経営者と伴走し、法的トラブルの解決や予防法務を通じて、会社や事業の成長・発展に尽力する。

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