競業避止義務違反を理由とする業務の差し止め
フランチャイズ契約終了後に、元加盟店がその後も自分で従来のFCと同じ業務を続けることは、多くの場合フランチャイズ契約の「契約終了後の競業禁止」規定によって、一定期間、一定地域で禁止されています。(詳しくは、【完全ガイド】フランチャイズ契約を解約・終了させたい加盟店のための「競業避止義務」対策)
競業禁止条項は、過度に元加盟店の権利を制約する場合には無効となる場合もあります(詳しくは、フランチャイズ契約の競業避止義務は有効?無効?裁判例から学ぶ判断基準)
しかし、競業禁止条項が有効な場合に、同条項に反してフランチャイズ契約終了後も同じ業務をした場合には、FC本部の申し立てによって、裁判所から業務自体を差し止める決定がなされることがあります。
業務の差し止めとは、業務を続けることによって権利や法律上の利益が侵害されるおそれがある場合に、元加盟店の業務を禁止することを裁判所が言い渡すことです。
裁判所から業務を差し止める決定がなされた場合には、元加盟店は直ちに業務を停止する義務が発生します。この義務に反した場合には、間接強制金(決定に従うまで1日あたり〇〇円を相手方に支払う義務)や損害賠償請求等のリスクが生じます。
業務差し止めが問題となった裁判例
しかし、差し止め命令は、損害賠償とは異なり、業務それ自体を禁止する厳しい内容なので、申立ては常に必ず認められるというわけではありません。
裁判例も、実際に差し止めを認める場合には、事案の具体的内容を精査しています。
①東京地裁令和4年3月2日(令和2年(ワ)第6254号)
化粧品販売を目的とするFCで、フランチャイズ契約終了後も事業を続けていた元加盟店に対して、FC本部が業務の差し止めを求めた事案です。
元加盟店は、そもそもフランチャイズ契約が終了したのはFC本部に原因があるのだから、競業行為の差し止めを求めるのは「信義則上許されない」と主張しました。
しかし裁判所は、競業禁止条項が有効であることを前提として、「仮に元加盟店がフランチャイズ契約を脱退したのがFC本部の原因であるとしても、そのことについて問題として損害賠償などすればよいのであり、競業を正当化するものではない」として、競業行為の差し止めを認めました。
これによって元加盟店は、金銭的な損害賠償債務を負うのみならず、業務を継続することもできなくなりました。
②東京地裁平成30年4月12日(平成29年(ワ)第7818号)
英会話教室を運営するFCで、フランチャイズ契約解除後も英語教室を行なっていた元加盟店に対して、競業禁止規定に反するとしてFC本部が業務の差し止めを求めた事案です。
本事案は、元加盟店が競業禁止規定に反して競業をしたこと、業務の差し止めの要件が満たされることを前提として「いつまで業務を差し止めることができるか」が問題となりました。というのも、本FC本部の契約書が競業を禁止する期間は「2年間」なので、脱退してから2年を経過した後も差し止めを認める必要はないとも考えられたからです。
裁判所は、たとえ元加盟店に競業禁止規定に反する競業があり、業務差し止め請求が認められるとしても、その期間は2年間を限度とする、としました。その理由は、競業禁止規定が「本来自由であるはずの被告の経済活動や教育活動を制限する性格を有する」という側面があるので、業務差し止めも無制限に認めるべきではなく競業禁止期間である2年間のみ認めれば足りる、と裁判所が判断したからと考えられます。
東京地裁平成17年12月28日(平成17年(ワ)第4479号)
本事案も②と同様に、英会話学校を運営するFCで、フランチャイズ契約解除後に別の英会話学校を開設した元加盟店に対して、競業禁止規定に反するとしてFC本部が業務の差し止めを求めた事案です。
本事案は、元加盟店のフランチャイズ脱退後の業務が、FC本部の業務とは微妙に異なったことから、業務差し止めの対象も、細かく区分されました。具体的には、元加盟店が脱退後に行なった授業のうち、FC本部が加盟店に販売したものを利用した授業については教材の返還及び授業の差し止めを認めましたが、市販品を用いた授業については授業の差し止めを認めませんでした。
このことからも、裁判所は、業務の差し止めは無制限に認めるのではなく、具体的な競業避止の内容を検討して、明らかに理由のある範囲だけ認める傾向にあります。
まとめ
このように、業務の差し止めは、業務自体ができなくなるという点で厳しいものですが、無制限、無制約のものではありません。
FC本部から差し止め命令が請求された場合にも、適切な反論を行うことで、決定が出されないようにしたり、その範囲を最小限にしたりすることもできる場合があります。
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