フランチャイズ契約終了後の競業避止義務違反が信義則上否定された裁判例

契約終了後も適用が続く競業避止規定は、フランチャイザー(以下「本部」といいます。)の財産である経営ノウハウを保護するために、フランチャイズ契約において盛り込まれることが多い規定です。

もっとも、契約終了後まで適用されてしまう競業避止規定は、フランチャイズ契約が終了した後であっても行うことができる仕事の範囲が限定されてしまうことから、フランチャイジー(以下「加盟店」といいます。)の職業選択の自由ないし営業の自由への不当な制限となり得るものといえます。そのため、多くの裁判において競業避止義務に関する規定の有効性が争われています。

今回は、競業避止義務規定違反が信義則上否定された、大阪地方裁判所平成22年5月12日判決をご紹介します。

目次

事案の概要

本件で問題となったのは、全自動ノーブラシ洗車機を設置した洗車場に係るフランチャイズ契約です。

フランチャイズ契約の締結から約3年半後、加盟店はフランチャイズ本部の情報提供義務及び指導援助義務違反を根拠に本件フランチャイズ契約を解除する旨の意思表示をしました。

もっとも、加盟店は、その後も、フランチャイズチェーンを標章した看板、ユニフォームその他一切のものを撤去又は廃棄した上で、「ノーブラシ洗車場」との文言が入った看板を掲げて同じ場所で洗車場事業を継続したのです。

そのため、フランチャイズ本部は、加盟店に対して、上記看板を掲げて洗車場を運営することを止めるよう求めましたが、加盟店はこれに応じませんでした。

その後、加盟店がフランチャイズ本部に対し、信義則上の情報提供義務及びフランチャイズ契約上の指導援助義務を怠ったとして、損害賠償請求訴訟を提起したところ、フランチャイズ本部は、逆に、加盟店に対して、フランチャイズ契約上の競業避止義務違反等を理由として、同種営業の差止めと、約定損害金の支払いを求めたのです。

競業避止義務規定の有効性

本件で問題となった競業避止義務規定は、

加盟店は、本件フランチャイズ契約を解除された場合、フランチャイズチェーン事業と類似した本業を本件フランチャイズ契約終了日より5年間は行ってはならないこととする

という内容でした。

加盟店は、「本件規定は公序良俗に反して無効」と主張しましたが、裁判所は、本件規定自体は公序良俗に違反せず、有効と判断しました。

その理由として、裁判所は

・禁止期間を5年とすることはやや長めではあるものの、不当に長期間にわたるとはいえないこと

・禁止の対象とする事業をフランチャイズチェーン事業(洗車事業)と限定されていること

・禁止対象地域については特に限定されていないものの、フランチャイズ本部が、現に加盟店が事業を行っていた土地に限定して営業の禁止を求めていること

などから、本件規定が過度に原告の営業を制約するものとはいえない一方、

・フランチャイズ本部に一定の経営ノウハウが認められること

・ノウハウを用いて確立した商圏を保護することに重大な関心を持つのが通常であること

から、一般論として、本件フランチャイズ契約終了後も、フランチャイズ本部が確立した商圏及び経営ノウハウを保護する必要性が認められるという点を指摘しています。

競業避止義務規定に基づく競業避止義務の有無

このように競業避止義務規定自体は有効であるとしても、本件で、この規定に基づいて加盟店に競業避止義務を負わせることが許されるのかについては別途問題となります。

裁判所は、この点について、次のような点を指摘しました。

・加盟店が本件店舗の開設、運営のために多額の費用を投じていること

・加盟店がフランチャイズチェーンとして営業していた期間、ほぼ毎月営業損失を出している状態で、投下資本の回収ができていない状態にあること

・加盟店が土地上に設置した建物やノーブラシ洗車機等の設備は土地に定着しており、他の土地に移設することが可能であるとしても多額の費用が必要になること

そして、以上に照らすと、加盟店が本件土地上での洗車場の経営を禁止されることにより被る不利益は極めて大きいとしました。

他方で、裁判所は、競業行為がなされることによってフランチャイズ本部が被る不利益について検討し、

本件競業避止義務規定の主な目的は、商圏の保護にあると推認されるところ、フランチャイズ本部が加盟店に代わって自ら又は他の加盟店をして本件土地上の店舗又はその近隣でフランチャイズチェーン事業を運営する事を現実に予定していることは証拠上認定できず、同店舗の商圏を維持しなければ、フランチャイズ本部が重大な不利益を受けるとは言い難い

としました。

その上で、裁判所は

加盟店が多額の費用を投資したことはフランチャイズ本部による情報提供義務に違反する勧誘行為が契機になっていること

を指摘し、自らの不適切な行為によって加盟店に多額の費用を投下させたフランチャイズ本部が、加盟店の競業を禁止しなければ重大な不利益を被るといった事情がないにもかかわらず、加盟店に競業避止義務を負わせて投下資本の回収を事実上困難にすることは信義則に反し許されないというべきであると判示しました。

最後に挙げられた、契約締結の際のフランチャイズ本部による情報提供義務違反の問題は、全体としての利益考量の中で重要な位置を占めていると思われます。要するに、フランチャイズ本部が不正確な情報を提供したことにより加盟し、多額の初期投資をすることになったのに、それを回収できないまま、契約終了後も競業避止という形で回収の機会を奪われるのはあまりに酷という判断です。

実は、裁判所は、加盟店が主張したフランチャイズ本部の情報提供義務違反による損害賠償に関する判断の中では、設備に関する初期投資費用については損害として認めませんでした。ただ、その代わり競業避止義務を制約し、契約終了後も設備を利用した事業を継続できるようにするという形で、絶妙なバランスをとったともいえます。

フランチャイズ本部の情報提供義務違反の問題は、損害賠償や解約違約金の制約という形で問題となることが多いですが、このようにフランチャイズ契約終了後の競業避止義務が争われる場面でも問題となってくるのです。

おわりに

このように、本件は、フランチャイズ契約によって提供されるノウハウ及びそれによって確立した商圏の保護の必要性、制限される範囲、すなわち加盟店が被る不利益が限定的であることに着目して競業避止義務規定が有効であるとした上で、加盟店の投下資本回収が困難であることと、加盟店が多額の費用を投下した原因が本部にあることをもって、信義則上競業避止義務規定を適用しないと判断された事例です。

裁判所では、競業避止義務の規定の有効性に関して、本部が提供するノウハウや商圏の保護の必要性や競業期間の長さ、範囲(場所的側面、業種的側面)といった部分が重要な判断要素となっていることがわかる事例となっています。

また、競業避止義務規定が有効であったとしても、フランチャイズチェーン事業を行うことによって加盟店が負担することとなった不利益が大きく、当該不利益について本部の帰責性がある場合には、競業避止義務規定の適用が否定される場合があるということが判断された事例ですので、この点についても大いに参考になるかと思います。

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執筆者情報

2016年 弁護士登録(愛知県弁護士会)/名古屋第一法律事務所所属
2017年 愛知中小企業家同友会会員
2021年 NPO法人あいちあんきネット理事
2022年 愛知県アーチェリー協会理事
2023年 名古屋外国語大学非常勤講師(企業と社会)
 
労働、相続等の一般民事に加え、スポーツ法務、中小企業法務を取り扱う。経営者と伴走し、法的トラブルの解決や予防法務を通じて、会社や事業の成長・発展に尽力する。

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