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機関設計とは
会社法では、会社の機関を、どのような形で設置するか、柔軟な設計をすることができます。
ここでいう「機関」とは、会社内部の組織(営業部や総務部など)とは違い、会社法上、定められているものをいいます。例えば、「株主総会」「取締役」「取締役会」「監査役」「監査役会」「会計参与」など、様々なものがあります。
筆者が、会社法を初めて学んだとき、「株主総会」や「取締役」が機関であるということになかなか馴染むことができませんでした(どうしても「蒸気機関」や「エンジン」が頭に浮かんできてしまいました。)。
ともあれ、会社において、機関を設計するということは、重要な意味をもちます。
それは、会社がどのような経営方針にするのかによって、それぞれの会社に合った機関設計をしなければならないということです。
例えば、不必要に取締役会(取締役が3人以上で構成される機関)を置いて、株主の意向がないがしろにされてしまったり、会社の意思決定が遅くなったりすることがありえます。
機関設計は、基本的に、定款の内容によって決定します。
なので、会社を新しく設立するときには機関設計を考慮すべきですし、既存の会社は、定款を変更することで、自社に合った機関設計とすることができます。
基本的な役割
機関の設計は自由であり、その組み合わせは何十通りにも及ぶのですが、中小企業にとって最も多い形態は、「株主総会」「取締役」「取締役会」「監査役」の機関の組み合わせです。
以下、役割を見ていきます。
株主総会
株主が集まって開かれる会議体。「なにを決議するのか」は、取締役会の有無によってかわってきます。
取締役会を置かない会社においては、「株式会社に関する一切の事項について」決議することができます。
取締役会を置く会社においては、「会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限り」決議することができます。
取締役
会社の業務執行に関する決定を行い、業務執行します。
取締役会
取締役3人以上で構成されます。会社の業務執行に関する決定を行います。
監査役
取締役の職務の執行を監査するものです。
取締役の職務には、会計に関するものと、業務に関するものとに分けることができますが、これらに対する監査を「会計監査」と「業務監査」といいます。
原則、監査役は「会計監査」と「業務監査」のどちらも行うのですが、非公開会社(すべての株式が譲渡制限株式である会社)においては、定款に定めることによって、監査役の権限を「会計監査」に限定することが可能です。
取締役会を置くメリット・デメリット
機関設計において重要なポイントのひとつに、取締役会を置くべきか否かということがあげられます。
①取締役会を置かない場合
取締役会を置かない場合、会社の具体的な業務執行は、各取締役が個人で行うことができます。
また、取締役が複数人いて、その中から特に代表者を定めない場合、各取締役それぞれが代表者として行動することが可能です。
取締役が複数人いる場合、会社の重要な業務は、原則、取締役の過半数をもって決定しますが、取締役会を置く場合に比べて、重要な業務の範囲が狭められているので、取締役の過半数をもって決定すべき事項は少ないのです。
この結果、各取締役は、会社の業務執行を迅速に行うことが可能になります。
しかし、各取締役の権限が強いため、取締役の独断専行を許してしまう危険もあります。
②取締役会を置く場合
取締役会を置く場合、会社の重要な業務は、取締役会の決議において決定することになるため、個々の取締役の独断専行を防止する機能があります。
また、「取締役会がある」ということによって、会社の信用性が増し、取引や融資で有利に働くという面もあります。
しかし、取締役会は会議体なので、これを開く手間がかかり、業務執行の迅速性には欠けることになります。
また、取締役会を置く場合、監査役も置かなければならなくなるので、取締役3人以上と監査役1人以上の人数が必要になります。さらにその人数分の役員報酬も必要になることになります。
また、取締役会を置く場合、相対的に、株主総会の権限が弱まるということがあげられます。
これについては、下記で述べます。
株主の権限を強くさせたい場合
株主が、多くの出資をし、筆頭株主となるが、取締役にはならないというケースなど、株主としての権限を強めたいときには、どのようにすればよいでしょうか。
このような場合にも、取締役会を置くべきか、否かという論点に関わってきます。
株主総会において、取締役会を置かない会社は、「株式会社に関する一切の事項について決議することができる」こととなっています。
他方、取締役会を置く会社は、「会社法に規定する事項および定款で定めた事項に限り、決議することができる」こととなっています。
すなわち、取締役会を置く会社は、株主総会で決議する事項が、狭く限定されてしまうのです。
ですので、株主の権限を強くさせたいのであれば、取締役会を置かないとすることがよいのです。
取締役会を置かない会社であれば、すべての事項について、株主総会で決議することが可能です。
例えば、会社の予算などについても、株主総会において決議をすれば、その決議は取締役を拘束しますので、株主の意向にそった運営が実現できるのです。
監査役を置くことのメリット・デメリット
取締役会を置いた場合、監査役は置かなければなりません。
他方、取締役会を置かない場合、監査役は、任意で置くか否かを決められます。
監査役を置くことによって、取締役の職務執行をチェックすることが期待できます。また、会社の信用性が増すという面もあります。
ただし、ここで気を付けなければならないことは、監査役には「会計監査」と「業務監査」があるということです。
非公開会社(すべての株式が譲渡制限株式である会社)においては、、定款に定めることによって、監査役の権限を「会計監査」に限定することが可能ですが、監査役の権限を、「会計監査」に限定してしまうと、取締役に対しての影響力が小さくなってしまうのです。
取締役の業務執行を、より強力に管理監督させたいのであれば、「会計監査」に限定することは避けた方が無難でしょう。

司法書士 小川 和也
2011年 愛知県立瑞陵高校卒業
2015年 立命館大学法学部卒業
同年 司法書士試験合格
同年 名古屋市丸の内・安井司法書士事務所に入所
2019年 梅村司法書士事務所 所属(名古屋市今池)

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